「間諜X27」鑑賞2015年01月28日 08:03

「間諜X27」を鑑賞

1931年制作。「嘆きの天使」同様、ディートリッヒ主演。

おそらく当時のディートリッヒのお約束だったのだろう、ストッキングを直す動作での足の露出がいきなり。

軍人の妻でありながら、夫の戦死で身を堕とした女が、その度胸と才覚を買われ、オーストリア軍内に潜入したロシア側のスパイを探りだす。大物のロシア人スパイとの駆け引きと恋愛が全体のキーになる。

ロシアに潜入したディートリッヒの変装も見もの。ほぼノーメイクなのだろうか、本当にロシアの垢抜けない田舎娘そのもの。このギャップだけでも見ものだ。

退廃した第一次大戦末期のウィーンの風俗もよく出ている。若い兵士にも厭戦気分が漂っているのがちょっとしたところで表現されている。ラストの若い兵士の叫びは、第一次大戦が終了し、またぞろきな臭くなり始めている制作当時の世界情勢の中では、人々の偽らざる本音だろう。

身を堕とし、投げやりに生きていた女が、祖国のために働くことで生を取り戻しながら、男への愛で人としての自分に戻っていく。身を堕としていた頃の服装で最期を迎える潔さ、若い兵士への心配りと毅然とした態度も印象的だった。

ピアノ演奏も内面心理の表現として秀逸。

「アデン、アラビア」「名誉の戦場」読了2015年01月29日 08:49

ポール・ニザン「アデン、アラビア」読了。

紀行文でもなければ、小説でもない。そこに気づくまで一迷走。エッセイと言うには重く、激烈な内容。ぼやっと読んでいると、あっという間に迷子になって、睡魔に襲われる。

気を入れて、ゆっくりと考えながら読むことが求められる。今風の「読書」では弾き飛ばされてしまう。長くはないが、読み応えと疲れは相当のものだった。

ジャン・ルオー「名誉の戦場」読了。

こちらは、フランスの田舎町の家族の話。淡々と日常が描かれているが、その背後に第一次大戦。戦場でドイツが使用したイペリット・ガスの惨禍が滑りこんでくる。

そして、オープニングの雨。小糠雨で始まり、ラスト近くもまた雨。この雨は涙雨なのか、それとも人々を浄化する慈悲の雨なのか。淡々と、時にユーモラスに、家族の日々と悲劇が綴られている。声高なところは何もない。タイトルそのものが皮肉のようにも感じられる。

どちらもフランスの作品。訳文が日本語としては固く感じるのは、フランス語の表現を引き継いでいるからかも知れない。