ジョセフ・コンラッド「闇の奥」読了2015年03月08日 17:37

 ジョセフ・コンラッド「闇の奥」(中野好夫訳・岩波文庫)を読了

 コッポラの「地獄の黙示録」の原作としても有名だが、映画がベトナム戦争の狂気だったのに対して、原作小説はアフリカの奥地となっている。

 1899年発表の原作では、まだまだアフリカは未踏の地多き土地として扱われている。その最奥部で活躍するやり手の象牙採取人、クルツ。象牙を運搬して、自分のあずかる出張所から、フランスの貿易会社の現地営業所に移動する途中、突如出張所へ単身引き返し、消息を断った彼を捜索に行く、イギリス人の船員、マーロウ。

 暗黒大陸アフリカの最奥部は闇の支配する世界。そこにひきよせられる、不思議な魅力を持つクルツ。マーロウはクルツの噂だけで彼に惹かれていく。しかし、アフリカの「闇の奥」は、クルツ自信の心の「闇の奥」と共鳴し、マーロウに底知れぬ心の闇を見せつける。

 全体はイギリス帰国後、テムズ川の遊覧船に乗り組んでいるマーロウの回想譚となっている。そして、このテムズ川の流れて行く先は靄、ロンドンは暗雲立ち込める闇。冒頭のこの設定は、アフリカでクルツと出会う時のイメージと完全に重なり、イギリスに象徴される近代文明そのものの持つ底知れぬ「闇の奥」を思わせる。

 そして、「闇の奥」は、だれの心の中にも潜んでいる…

 200ページにも満たない作品だが、その内容は重い。