「量子怪盗」読了2017年01月11日 23:54

 ハンヌ・ライアニエミ「量子怪盗」読了

 冒頭から連発されるタームに幻惑されるので、「慣れる前に萎える」ひともいるかもしれない。そこをクリアすれば、キャラクター小説としても読むことができるし、シンギュラリティ以降の世界を舞台にしたピカレスク小説として読むこともできる。

 天才的盗賊だが、チャラけたキザ男にしか見えない怪盗、ジャン・ル・フランブール、彼の脱獄に手を貸す戦闘美少女ミエリ、そしてフランブールを追う学生探偵、イジドール・ボードルレ。モーリス・ルブランのルパンシリーズの登場キャラクターの名前を踏まえたキャラクター群が入り混じり、それぞれが背負う過去をほのめかしながら、物語はテンポよく進んでいく。

 ラストには大スペクタクルも待ち構え、実に王道スタイル。たしかにシンギュラリティ以降の、肉体を乗り換えながら永遠に生きる精神、時間を価値通貨としてみなす設定など、最近のSFのお約束の知識がないと、「ワケワカンナイ!」となってしまうかもしれないが、いっそわからないところは読み飛ばして、キャラクターの絡みに専念して読むのも面白いかもしれない。それはこの作品全体に流れる「人情」と「自由の希求」のなせる技なのだろう。

 難解を耐えた先にあるエンタテインメント。