出版不況とアマゾンと2017年01月22日 20:30

 出版業界が不況だという。たしかに個人経営の書店が減少し、フランチャイズ書店の数も減少、または売り場縮小が、特に地方では目につく。東京でも硬派の書店がなくなるなどということが起きているらしい。

 その原因をアマゾンに求める風潮もある。これには異論紛々である。大都市圏しか知らない、そこにしか暮らしていないような御仁の暴論であると言いたいぐらいだ。

 地方の書店に行ってみるがいい。歯抜けに並ぶラノベのシリーズやコミックス。新聞書評欄にあげられた書籍の大半が店頭に並んでいない。フランチャイズ書店では申し訳程度に、新聞の書評欄をウィンドウにディスプレイして、一部の書籍に「店頭にあります」などとコメントしているが、毎日新聞の書評欄など、毎週取り上げられる書籍が多いからなのか、最初から黙殺状態である。

 並んでいるのは売れ筋やセンセーショナルな惹句の新書。岩波書店の書籍など、買い取り制の弊害も会って、まずお目にかかれない。講談社学術文庫や文芸文庫どころか、光文社古典新訳文庫すらお寒い状況、ちくま文庫や河出文庫も売り場狭小、果ては早川あたりでも新刊は1ヶ月遅れなどマシな方だ。

 注文をかけたところで、硬波の本の到着は遅いし、下手をするとなしのつぶての事故伝。やっと届いた本は汚損で、あまりの酷さに書店が気を利かせて再発注などということさえ何度もあった。

 地方の小規模書店の発注伝票を取り次ぎ問屋が握りつぶすということは、昭和の頃にはけっこうあったという話も実際に書店から聞いたことがある。九州ではいまだに書籍は関門海峡で2日足止めというアナクロ体質が温存されていることを、東京あたりの方々はご存知なのだろうか。予想外の売れ筋の本の場合、新刊書が発売日直近に関門海峡を渡ることすらなく、半月以上遅れないと入手できないということも、昔話ではない。

 これならアマゾンを利用するのが確実かつ迅速に書籍を入手する適切な購入方法と言わざるを得ない。出版不況は都市部だけの問題ではない。第一、都市部の人口総数をひっくるめても、全地方人口を超えることはない。顧客を確保するなら、地方販売の利便を重視すべきはずなのに、それを旧態然と放置していた書籍流通システム自体が自滅しているのだ。その放置したニッチにアマゾンがきっちりと食い込んでいた、つまりユーザにより近いところにアマゾンがいただけの話だ。

 上から目線、都市部偏重の書籍流通(できない、難しい、仕方ない)が、アマゾンの流通力(できる、克服する、向上する)に負けただけのことだ。既存の書籍流通システムを擁護する必然性は、少なくとも地方在住者には全くと言っていいほど、ない。

 個人的には、書籍流通システムに対しては、マイナス感情のほうがプラス感情より圧倒的に大きい。近隣にある、とあるフランチャイズ書店は、経営難からある書籍取次の直営に近い営業形態となり、大幅改装したが、売り場が広がっても、並ぶ書籍に魅力が激減、書籍の扱いも乱雑で、表紙をディスプレイして書棚の空白をごまかし、表紙ディスプレイされた文庫本の表紙はヘタってだらしなく開き、カバーが垂れ下がっている体たらく。新刊書は入荷が遅い。同じフランチャイズ書店でも、店舗改装もなく、従業員も以前と変わらない店舗の方が、よほど攻めた書籍揃えを見せている。書籍流通システムの実力など、推して知るべしである。本好きが好んでこんなところから本を買うとお思いか?

 悪いが、アマゾンで本を買うほうがはるかに快適かつ気分がよい。