無書店自治体の増加2017年08月26日 23:39

 無書店の自治体が増加しているという。

 ネット通販が元凶だという声もあるらしい。一時囁かれた電子書籍は、最近すっかりやり玉に上がらなくなってきたようだ。だが、それとて電子書籍という専用デバイスが下火になって、タブレットやスマホがその位置にスライドしているわけであって、影響なしとは言い切れない。

 だが、無書店と化した自治体は地方部だ。

 地方の中小書店や地方拠点のフランチャイズ書店に対して、書籍大手取次は従来からどのような仕打ちをしてきたというのか。

 販売数が少ないことを理由に、大都市圏の大規模書店にばかり配本を優遇し、地方書店にはろくな数の割当をしない。地方書店が発注をかけても「在庫なし」で放置。それどころか注文伝票を、故意か不慮か定かではない状態で「紛失(あるいは握りつぶし)」して、発注を無視することも頻繁だった。これを業界では「事故伝」と呼ぶのだそうが、田舎暮らしの私もずいぶんこの「事故伝」に煮え湯を飲まされたものだ。

 まさに地方書店・個人書店・小規模書店の切り捨て(いじめとも思える)を平然と行い続けてきたのは、書籍取次業者そのものだ。無書店自治体の増加は今に始まったことでもないし、電子書籍やネット通販の存在もその主因ではない。単なる取次業者の自作自演だ。

 田舎にいれば、事故伝やら品切れやらで欲しい本は手に入らない。潰れた書店を接収して取次業者が営業再開することもあるが、こんな書店に限って、本当に本好きの客が欲しがる本をまともに並べることがない。売れ筋の本を適当に数揃えて並べ、数は出ないが大切な本はとっとと返品し、書棚のスペースをどんどん縮小する。返品した本が話題となってリバイバルした時は時すでに遅し。ほとぼりが覚めた頃に少しくたびれた商品が数冊、こっそりと並べられる体たらく。取次業者は「本」ではなく、単なる「兌換商品」を売っているだけであって、書店員としてのプロフェッショナルな判断は薄い。

 地方の本好きが、確実に本が手に入るネット通販や電子書籍に流れるのは当然だ。数週間待たされた挙句に「事故伝」で再発注などと、ふざけた対応をされるより、ワンクリックで2日も待てば確実に本が手に入るのだから。電子書籍なら入手はクリック後ほぼ瞬時。未だに九州地方は発売日が遅れるが、そんな馬鹿げた話もネット通販や電子書籍にはない。

 無書店自治体の住人が書店を責めるのはお門違いだ。書店が地方でも健全に、平等に商品を取り扱えるシステムを、当初から構築する気がなかった取次業者こそ、責められるべきだ。ネット通販や電子書籍を槍玉に挙げる前に、顧客のニーズに真摯に向き合わずに殿様商売を決め込んだ取次業者の体質改善こそが、無書店自治体の解消のためには急務だろう。