「『パンチ』素描集―19世紀のロンドン」読了2017年08月29日 23:31

 「『パンチ』素描集―19世紀のロンドン」を読了。

 フランチャイズの古書店で購入した格安の岩波文庫。ヴィクトリア朝のイギリスで生まれた雑誌「パンチ」に掲載された素描、後にカートゥーンと呼ばれる、風刺漫画を題材にして、19世紀ロンドンの市井の様子をいきいきと紹介している。

 ヴィクトリア朝といえば、産業革命まっただ中、シャーロック・ホームズが活躍し、スチームパンクの舞台としても有名な時代だが、その影の部分もこの本はきちんと描き出している。

 王室に対する批評も、どこか愛情のこもった辛辣さを感じてしまう。辛辣な批評も、いたずらに民衆を煽るのではなく、諧謔を込めて事実を浮き立たせる形なので、陰湿さやむき出しの攻撃性を感じない。まさに「紳士」的だ。

 スキャンダルジャーナリズムで部数を伸ばし、名声を高めているどこかの国の週間雑誌とは、残念ながら格が違いすぎる。だが、そんな雑誌を求める国民が多いのも事実。「パンチ」もすでに廃刊して久しい。

 一体我々は賢くなっているのか、それとも反知性主義的風潮にどっぷり浸かって刹那的な感情に振り回されるようになってしまったのか。かつて「パンチ」という雑誌があり(明治初期の日本にも似たようなジャーナリズムは生まれている)、それが廃刊されてしまったという事自体が、現代社会に対する皮肉のように思えてならなかった。