「幸せなひとりぼっち」鑑賞2017年09月24日 10:59

 「幸せなひとりぼっち」を鑑賞。

 以前から気になっていた作品だが、近隣の劇場(そのほとんどはシネコンになってしまった)では上映される気配すらなかった。かつての単館系映画全盛期でもそういうことはよくあった(「バグダット・カフェ」もかからなかったなぁ)ので、このご時世、地味な、それもスウェーデン映画とくれば、まずスクリーンで見ることなど、地方ではかなわぬ望みだ。

 当然レンタルか、BS系での放送を待つことになった。今回はレンタルでの鑑賞となった。

 静かだが、ブラックなユーモア満載だ。なにせ主人公の老人(と言ってもまだ59歳!)が、先立たれた妻の後を追って自殺を何度も企てる。ところが、ご近所のあれやこれやが邪魔をして、なかなか死ねない。そのたびに妻の墓の前でグチる。

 この老人、とにかく頑固で、規則にやかましい。そのうえ口も悪い。当然嫌われ者なのだが、どこか憎めない。いやいやながらも巻き込まれれば、持ち前の手先の器用さと父親仕込みのエンジニア気質で人助けをしてしまう。

 そこに隣人一家がやってくる。妻は中東出身、どうやら紛争地帯を抜けだしてスウェーデンにやってきたらしい。身重の身だが、修羅場をくぐった元気で押しの強い美人。連れ子の娘が二人。この二人がなぜか老人になついてしまう。おまけにこの老人、やたらとこども好き。そこから家族ぐるみの付き合いが始まり、次第に老人は一家と打ち解け、周囲とも関係を修復していく…

 どうしてこの老人がこども好きなのか、この老人はどうしてキッチンに客を入れたがらないのか、そして、老人が後追い自殺まで考えるほど愛した妻とは、どんな女性だったのか、物語は老人が子供の頃、若かった頃、妻と出合った頃の回想も絡めながら、重くならず、バカバカしくもならず、少し滑稽で、人情たっぷりに進んでいく。

 単館系映画の佳品の系列をまっすぐ受け継いだような佳作だ。原作小説の映画化だが、映画としてきちんと成立している。

 こういった作品が劇場にかからない。かけても客が来ない。そういう判断を配給会社がする国。同じ女優、同じ俳優(いや、アイドルという方が正確か?)を使いまわし、高校と部活とイチャつきごっこばかりを売れ筋映画として垂れ流している制作会社。カネに走ると作品は貧しくなる。カネにならずとも豊かな映画を、豊かに享受することができるようになるには、まだまだ学ばねばならないことが多いようだ。

 主人公の老人は生涯学ぶことを忘れなかった。そして、多くの人々に受け入れられ、しんみりと、悲しく、そして少し明るいラストへと続く。いいものを観ることができた。