年の瀬2017年12月11日 23:21

 気がつけば年の瀬。

 唇寒しといった世の中が始まった年になってしまったのではないかと、少々不安でもある。

 海の向こうからやってくるのは老朽化した漁船と強奪犯。かつて南の海から命がけでやってきたボート・ピープルを彷彿とさせる。有刺鉄線とコンクリートの壁に比べて、冷たく荒れる海はまだましなのだろうか。

 秩序が崩壊すれば、理性は通用しなくなる。平和ボケして、理性で全てが解決できるとでも錯覚しているようなことでは、来年はやっていけるのだろうか。

 不安が払拭できぬまま、今年も終わりゆく。

「夢幻諸島から」読了2017年12月24日 23:18

 クリストファー・プリーストの「夢幻諸島から」を読了。

 読み始めてずいぶん時間が経ってしまったが、これほど読み終わりたくないと思う本も珍しい。

 どことなく地球を連想させるような他の惑星。時間が歪む空間属性のため、高度の高い飛行は不可能。飛行機は短距離の低空飛行しかできない。表面の大半は海洋で、北と南に大陸、そして海洋には多くの島々が点在している。交通手段の多くは船、そして2大国家間の戦争が影を落としているが、今は戦争も膠着状態で冷戦下にある。しかし実戦が間近と言った緊迫感はなく、夢幻に広がる美しい海原、熱帯島嶼の熱さ、寒帯島嶼の風の冷たさ、そういったどちらかといえばゆったりした世界が続く。

 本編はこうした島々の観光ガイドの体裁をとっている。最初から読まねばならないというものではなく、また、そのような直線的な読みを許容しない作品でもある。元に何度も行きつ戻りつしながら読むことが求められ、それがまた楽しい。

 複数の短編が統合されているが、複数の短編にまたがって登場する人物や事件も複数あり、また、複数の事件が絡みあうこともあって、まさにモヤの中で少しずつ世界を掌握していく感覚は、かつての名ゲーム「ミスト」を彷彿とさせる。そう、この本は焦って読んではいけない。あの「ミスト」同様、何度も試行錯誤し、行きつ戻りつしながら紐解いていくべき本だ。

 それでも最後の話にいつかはたどり着いてしまう。最後の短編に登場する二人の話を読むと、どうしても「イザナギ」「イザナミ」神話を連想してしまう。そしてこの最後の話が終わったとき、また夢幻諸島への船出が始まる。

 急いで読む必要はない。気の向くまま、思いのまま、ゆったりと夢幻諸島の世界に、はるかな大海原の波にゆったりと揺られながら、潮の香りと風の感覚を楽しみながら読むのが一番だ。