「レッドスーツ」読了2018年03月11日 23:16

 ジョン・ルコルジーの「レッドスーツ」を読了。

 「スター・トレックTOS(というより、日本では「宇宙大作戦」の方が通りがいいかも)」で、イントロ部分で意味もなく殺されてしまう、エキストラのキャラクターは、大抵の場合保安要員であり、彼等の着用しているシャツが赤。このことから、使い捨てのキャラクターのことを「redhhirts」。これが原題。日本語では「レッドスーツ」と呼ぶ。

 主人公ダールがこの「レッドスーツ」役そのもの。彼は主要上級士官は絶対に死なないが、彼等に同行する隊員の死亡率が非常に高いことに気づく。そして、やがて自分たちがかつて20世紀にヒットした「宇宙大作戦」の類似TV番組(とはいえ、「宇宙大作戦」の、それも出来のよろしくないエピソードと同等)の登場人物であると判明する。

 確実に迫り来る死の危機に、主人公ダールと4人の仲間はどう対処するのか。

 昔懐かしのTVドラマへの愛情たっぷりのツッコミ話だが、アクション満載、スリルたっぷり、肩肘張らずに楽しめる作品であり、タイムトラベルを始めとするさまざまな仕掛けも楽しい。

 だが、この作品の真価は、終章にあるのではないだろうか。

 メインストーリーから外れたこの終章が、実にいい味を出している。挫折からの復帰話あり、涙涙の人情話あり、そしてなんとも不思議なラブストーリーあり。これもまた古き良き、そして今でも受け継がれている「スター・トレック」やSFドラマの骨子と言っていいだろう。いや、ジャンルを超えて、全てのストーリーの原点と言えるかもしれない。

 メインストーリーのドタバタに辟易する向きもあるかもしれないが、そういう人は、そのドタバタが終章に続く大きな伏線だと思って読み続けて欲しい。絶対に損はない。最後にほろっとさせる上質なコメディとしてきちんと成立している。

 こむつかしい話ではない。こういう話がSFの原点だったような気がする。「男はつらいよ」はアカデミー賞を取れないだろうが、みんな好きだ。この作品もそんなテイスト満載である。もっともこの作品は「ヒューゴー賞」のみならず、コアでハードなSF好みの硬派な「ローカス賞」まで受賞している。さすがローカス、懐が深い。