「寄港地のない船」読了2019年01月23日 23:32

 ブライアン・W・オールディスの第一長編、「寄港地のない船」を読了。

 長らく翻訳されなかった幻の処女長編ということだが、後のオールディスの作品の萌芽ははっきり読み取れる。

 主人公はロイはマッチョだが少々賢くない、いかにも体育系のほほん男。若干モラトリアム傾向もある。女房には尻に敷かれ、母親にも頭が上がらない。得意の狩りは不景気で、鬱憤が溜まっている。

 女房に急かされて狩りに行くのだが、彼らが住んでいるのはどうやら恒星間宇宙船の中。突然変異した植物が居住空間を侵食し、社会は中世レベルにまで退化。デッキの間の行き来もゲートの封鎖などで困難。そして奇妙な一族の襲撃で、妻を奪われ、ロイは処罰対象となる。

 そこに生ぐさ聖職者、マラッパーに誘われ、自分たちのコロニーを脱走し、宇宙船のコクピットと思われるところへと冒険が始まって…

 閉鎖された、あるいは異質な世界をトレッキングするという趣向は、後のオールディスの名作「グレイベアド」や、「地球の長い午後」にも引き継がれている。主人公がヒーロー然としていないところもまた同様。そしてラストのなんとも苦い落とし具合もまたオールディスらしい。

 最近、本作も含み、SF絡みの面白い作品を立て続けに出版する竹書房。注目していきたい。