ちくま文庫の石ノ森2019年12月28日 17:55

 ちくま文庫が立て続けに石ノ森章太郎の作品を出版した。

 第一弾が「アニマルファーム」、そう、ジョージ・オーウェルの「動物牧場」を漫画化したものだ。1970年の少年マガジン掲載。存在は知っていたが未読だった。他にも小松左京原作の「くだんのはは」、オリジナル(とはいえ、牡丹燈籠のパロディ)の「カラーンン・コローン」。後半2作は既読だが、原作を読んだ上での「くだんのはは」の漫画家の見事なこと。「カラーン・コローン」も今では絵空事にならなくなってきているのではないかと、以前とは別の意味でゾッとする。
 そして「アニマルファーム」。よくこれを少年マガジンが掲載したとつくづく思う。今では考えられないようなとんがりっぷりだ。オーウェルの寓話をこれほどストレートに表現できるのは石ノ森の才能だろう。この作品の延長にあの「ドッグ・ワールド」が生まれたのかもしれない。

 第二弾はなんと、「佐武と市捕物控」のセレクション全3巻。発表順ではなく、テーマを据えて作品群からセレクトしてある。どれもみな懐かしいのだが、今読み返してみると、この作品、人生の枯葉色が見えてこそ腑に落ちる話が本当に多い。もちろん石ノ森自身はこの作品をかいていた時、まだそんな年齢ではなかったのだが。
 若い時分は若い佐武やんに、そして人生の陽が傾き始めると市やんに、読む側の軸足も次第に変わっていく。年の離れた友人二人というこの設定が、どれほど作品に深みを与えたことか。

 すでに凡百の小説などを突き抜けた漫画がここにある。漫画は低俗でつまらないものだという、ろくに漫画を読みもしない胡乱な輩が、教育だの読書指導だのと世迷いごとを吹聴するのはそろそろ自身の無知蒙昧の宣伝に過ぎないということを思い知るべきではないのだろうか。「ちくま文庫」という入れ物が、そのことを痛切に批判している証拠ではないかと思う。

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