「鴛鴦歌合戦」を観る2020年10月11日 22:31

 マキノ雅弘監督の「鴛鴦歌合戦」を観る。

 昔なつかしのLD時代から気になっていたが、なかなかご縁がなかった作品だった。やっと観ることができた。

 1939年の時代劇オペレッタ。シリアスにみてはいけないし、音楽ももちろん当時のトレンドなのだから、今の目と耳では古さは否めない。映像もピントが甘く、ボケ気味。それでもすごい。

 志村喬がまだ30代で見事な老け役、おまけに美声。「生きる」のゴンドラの歌が印象深いのは、本質的に美声で歌がうまかったからなのだとつくづく実感。

 バカ殿は昭和の大歌手ディック・ミネ。もちろん若い。いかにもバカ殿風で板についている。

 歌も戦前モダンの日本ジャズの香りが濃厚、歌は戦前歌唱だから、かなり声楽的だが、曲がなんとも素敵で、歌詞も外来語続出…このテイストは、そう、懐かしのあのマンガ「はいからさんが通る」のイメージか(つくねの東京タワーなんてセリフが大正時代に飛び出したなぁ)。

 イケメンだけどどこか煮えきらないモテ役は片岡千恵蔵。彼を取り巻く女性が3人。これがまあみんな美人。現代でもこんな美人女優3人がそろうなんて珍しい(現代の女優は親しみをもってもらうために、どこかすこし美しくないところがあると言われる)。非の打ち所がない美人3人。

 間もなくきな臭くなり、暗い世の中になる、そんな時期に、こんな洒落た小粋なオペレッタが、わずか2週間でできる底力。戦争で失われた文化力かもしれない。

 劇中、志村喬のセリフ。「大事なことに気がつく時は、いつも手遅れになった時」。間もなく日本はそうなった。それは過去の話に過ぎないのだろうか。