「ローサは密告された」を観る2021年05月04日 20:31

 「ローサは密告された」を観る。ブリランテ・メンドーサ監督による2016年のフィリピン映画。

 スラム街に住む母親ローサとその家族。夫と2人の息子、1人の娘。スラム街で雑貨屋を営む肝っ玉母さんといったところか。

 だが場所はスラム。当然裏社会とのつながりは切っても切れないものだ。この店で「アイス」といえば、麻薬のこと。ローサは闇商売にも手を染めていたし、そうしないと生きていけなかった。

 そんなローサが夫とともに突然警察に逮捕されてしまう。どうやら彼女が麻薬を売っていることを密告した人物がいるらしい。

 警察も腐敗しきっている。釈放してほしければ保釈金を払えとふっかけてくる。もちろん公式な金ではない。没収した麻薬はそのまま闇市場に横流し、その金でローサたちの前で平然と宴会を始める。ローサの子どもたちはさまざまな方法で金策に駆け回る…それでも足りない金を作るためにローサは家族を警察に残して一人スラムへ戻っていくが…

 最初客の若い男に金の無心をされて,けんもほろろな応対をしたローサだが、気がつけばその男と全く同じ言葉を使い、自分が放った言葉をそのまま別の男から投げかけられる…そしてラストシーン。

 なんとも救いのない話。閉塞したフィリピンの貧困層と腐敗した権力の世界だが、これはなにもフィリピンだけのことではない。場所を変え、シチュエーションを変えれば、世界中どこにでもあるやるせない話だ。

 医療従事者の「不足」という実態を脇目に「500人のスタッフ」や「無償労働の医師」を要求するのと、法を犯さないと生きていけないほどに「放置」された貧困層に対して法外な「保釈金」をふっかけるのと、構図にどれほどの違いがあるのだろう。

 ローサの涙を、ローサの世界は誰も知らない。