「ボヤージュ・オブ・タイム」を観る2021年12月28日 20:30

 「ボヤージュ・オブ・タイム」を観る。

 テレンス・マリック監督の、内省的イメージをベースにした映像詩といったところか。これといった大きなストーリーがあるわけでもなく、大きなスパンで生命や宇宙の発生からその行く末までを、詩の朗読にあわせて表現した作品。

 くだくだと理屈をこねたり、娯楽を求めたりする向きには敬遠されるだろう。ただただ、映像と音楽と詩に身を任せてたゆたうのがこういう映画の楽しみ方ではないか。

 できるなら劇場で、大画面で観てみたかった。最低でもこの映画に2000円近くを払う懐と心の、そして感染症対策のゆとりがあるときに。

「イカリエ-XB-1」を観る2021年12月28日 20:36

 「イカリエ-XB-1」を観る。

 1963年、チェコで制作されたSF映画。モノクロ作品。

 40名ほどの乗員を乗せて生命探査の旅に出た宇宙船、イカリエ-XB-1の物語。ポーランドの小説家、スタニスワフ・レムの「マゼラン星雲」の映画化だというが、原作は未読。レムはあの「ソラリス」で有名だ。

 生命探査の度に出る男女混成の宇宙船…もちろん、あのUSSエンタープライズを連想するが、どうやらこの作品の方が先行し、アメリカでも上映されていたらしく、スター・トレックに影響を与えた可能性があるらしい。

 ゴーストスペースシップや核兵器の恐怖、未知の現象による危機や未知の文明、生命体との遭遇といった基本は全部ここにある。時代的な成約もあってお行儀がよすぎたり、今の目からすればちょっとずれている点はご愛嬌。至ってシリアスな作品。埋もれてしまうには惜しい。

「エリシウム」を観る2021年12月28日 20:46

 「エリジウム」を観る。

 軌道上のコロニー「エリジウム」には裕福な階級が贅沢な暮らしを満喫し、奇跡的な医療体勢が整っている(「ハーモニー」の「ウォッチ・ミー」も連想するが)。一方地球上はスラム化し、貧困と治安悪化が進んでいる。

 主人公はそんな中で、やっと手に入れた仕事の最中に致命的な事故に会い、余命数日という状態になる。生き延びるためには、レジスタンスに身を投じ、エリジウムに潜入し、個人データをハッキングして医療ポッドに入って治療するしかないのだが…

 ジョディ・フォスターが冷徹な悪役として登場するが、あまり実在感がない。紋切り型の悪役で、これは脚本段階での問題だろう。貧困層対富裕層の二項対立、富裕層は悪役で貧困層は善玉というのも王道中の王道。マッドな敵との肉弾戦もこれまたお約束どおり。安心して観ていられる勧善懲悪SFアクション。ラストもさほど驚くこともなく…時代劇にもよくある落とし方だ。

 ハンバーガーやジャンクフード、あるいはソウルフード的な作品として破綻なくまとまっている。

「菊とギロチン」を観る2021年12月28日 20:58

 「菊とギロチン」を観る。

 2018年の日本映画。3時間のボリュームがあるが、あまり長さは感じなかった。

 大正末、関東大震災後の日本、左翼思想と過激な行動を行っていた実在の結社「ギロチン社」に身を置く青年と、貧困や差別やDVから逃げ出した女性たちが集う女相撲一座に身を置くヒロインの四股名、「花菊」との物語と言っていいだろう。

 関東大震災は様々な作品でも触れられ、学校でも教えられているが、震災後の被災者が難民化して貧困のどん底で放浪していたというのははじめて知った。たしかに考えてみれば当然のことだ。

 それにしても、この作品に登場する男たちの何と野蛮で殺伐としたことか。暴力、それも弱いものに対する容赦のない暴力。DVなど当たり前のような世界。女相撲の座長(男)も身内の行事役の若い男には殴る、蹴る、罵倒するとさんざんだ。もっとも彼は力士の女性には決して手を上げないし、むしろ彼女たちを守ろうと努めているのがわかる。

 ギロチン社に関わる登場人物はほぼ実在の人物であり、映画ラストには彼らの行く末が提示される。弾圧され、処刑され、獄死し、消息不明となり…誰も彼もみな、善人であり、同時に悪党でもある。そして、女は相撲を拠り所にして立ち上がる。だがその女相撲もまた…

 3時間が必要なほどのテーマをつぎ込み、それでもまだ描ききれないほどの重い内容だが、どこか醒めた視点を感じる。それが重苦しさからこの作品を解放しているようにも感じた。

「チャイルド44 森に消えた子どもたち」を観る2021年12月28日 21:14

 「チャイルド44 森に消えた子どもたち」を観る。

 2015年アメリカ映画。だが舞台は1953年のソ連。スターリン独裁末期の重苦しい粛清続きの時代。輝かしい社会主義国家ソ連には理論的には犯罪は存在しないという妄想を信じなければ命がない社会。そんなソ連に、子供を狙った連続殺人事件が発生する。体制側は理論を優先するために事件をもみ消そうとするが…

 トム・ロブ・スミスの「チャイルド44」が原作だが、この原作もまた実際のソ連(もっとも1970年末から1990年にかけてだが)で発生した子供の連続殺人事件をベースにしている。

 原作に比べ、主人公の設定が変わっているところが、最後までこの映画を左右しているように感じた。原作にある重さ、影が薄まってしまい、またラストも原作と変わらざるを得なくなっている。そのせいか、サスペンス+アクションというスタイルが表に出てしまい、普通のソ連社会告発タイプのハリウッド映画のイメージになっている。後半のバディものスタイルも今ひとつだし、ラストも冗長感が否めない。

 原作のエグいキモを外したせいで、作品のキモも欠けてしまった感じがする。