「アイアン・スカイ」を観る2022年02月23日 17:39

 「アイアン・スカイ」を観る。以前公開版は見ていたので、ディレクターズカット版を観た。

 まあ、おバカ映画である。もっとも、最近のメジャーどころの日本映画のような「おバカ」とは程度が違う。一発芸芸人の寒々としたギャグもなければ、芸能事務所絡みのゴリ押しを勘ぐらせるようなキャストによる過剰演技もない。一言で言えば「ブラック」。それも「真っ黒」なユーモアとギャグである。評価はおしなべて高くない映画だが、昨今の日本のメジャー映画など足元にも及ばない。

 ナチスが1945年から月の裏側(ダークサイド・オブ・ザ・ムーン…お約束のバカバカしい設定という雰囲気が本編からもありありと伺える言葉)に逃走し、ヘリウム3を資源としてレトロフューチャー的な「第四帝国」を築き、ゴチゴチのナチ思想で社会と教育を成立させているという設定。そこにアメリカの大統領選挙で支持率をあげようと、女性大統領が白服の宇宙飛行士と黒服の宇宙飛行士を宇宙船に乗せ、月面着陸させる。白服宇宙飛行士はナチスに発見されて射殺、黒服宇宙飛行士は捕虜にされ、ナチス本拠へ…そこでヘルメット(中は見えない)をとると、現れたのは黒人…ナチスの人種差別思想ではありえない事実に仰天するナチス上層部…

 強烈な人種差別、誇大妄想、権力闘争を当然のように受け入れているナチス、その思想に純粋(すぎるほど)培養されたヒロイン、そして脱走した黒人(当初からどこか変なキャラクターだが、実は大統領選の人気取りのために宇宙飛行士に抜擢された黒人男性モデル)の絡みは笑えながらもゾッとする。このゴチゴチのナチス思想が、アメリカ大統領選挙のキャンペーンとガッチリ一致し、国民の支持率が跳ね上がるというブラックさ。ナチスはドイツ国民によって民主的に政権を掌握した事実を考えると、笑いを通り越して恐ろしくなる。

 地球の各国首脳のバカさ加減もひどいが、実は各国の本音を丸出しにしているだけであり、どこかの国のウケ狙いとは全く違う。このあたりもまさに「真っ黒」。

 そしてラスト…もはや漆黒である。

 純粋培養ナチスの箱入り娘のヒロインが、登場した時はすこしギスっとした雰囲気なのに、ラストでナチスの実態を知り、自立し始めるとキュートなイメージに変わっていくのが面白い。

 2012年の映画。アメリカの宇宙戦艦はこの年だからあの名前だったのだ…もし2021年なら、もちろん別の…あの名前に…

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