「エール!」を観る2022年03月21日 11:05

 「エール!」を観る。2014年のフランス映画。数年前にシネコンのロビーで予告を観て、気になっていたものの、観る機会を逸していた作品。

 4人家族のフランスの酪農家、ベリエ家は、長女の高校生、ポーラ以外全員が聴覚障害者。美人の母とちょっと昔気質の父。夫婦仲はアツアツである。冒頭、両親は婦人科のクリニックへ。医師の診断を手話通訳するのはポーラの仕事。待合室で長男のポーラの弟クエンティンは待合室でちょっとエロい雑誌を読んでいるませガキ。あけすけな夫婦生活への指示も顔色一つ変えず通訳するポーラだが、まだ初潮がない。この冒頭のクリニックのシーンが実はいろんな伏線と象徴となっている。

 お国柄なのか、性に関する言及は日本の感覚ではかなり過激。それが全くいやらしくも陰湿でもなく、あっけらかんとしているのがまたフランス風なのかと思う。そんな中でポーラは日本の感覚から考えても超奥手。そんな彼女がたった一言反抗的な返事をした、その声だけで歌の素質を見抜くのが、どうやら音楽界で挫折して田舎の高校音楽教師をしているトマソン。嫌味タラタラの嫌な奴なのだが、見事にポーラの才能を見抜いて育て上げ、最後には美味しいところをさらっていく、憎めない男である。

 ポーラも才能に無自覚で、ポーラ自身がソプラノボイスを初めて発してパニックに陥るほどだった。だが、なにせ家族はみんな聴覚障害を持っている。ポーラの才能を家族はみんな認識することができない。そのズレが親離れ、子離れをよりはっきりと家族に突きつけることになる。

 一言で言えばいい話。だが、それを淡々と、多くを語らず(説明も端折っている部分がある)、お涙頂戴のBGMもなく(一番大切なところは無音。まるで「ライムライト」の観客の反応が無音なのと同じ)、さらっと作り上げているのがいい。日本だともうベタベタドロドロ、おまけに「性」を使った暗示など(高校の保護者向け発表会の曲目がかなり際どい歌…日本ではまずキョウイクイインカイが許さない…)不可能か。作る側だけではなく、観る側もまたしかり。

 ハリウッドが「コーダ」というタイトルでリメイク、母親役はマーリー・マトリンと、懐かしい名前だ。これも本家フランスから高い評価を受けたらしい。未見だが、ハリウッド的濃厚ソース味にされていなければいいのだが。