「黄線地帯(イエローライン)」を観る2023年01月26日 21:32

 「黄線地帯(イエローライン)」を観る。1960年、石井輝男監督、渡辺宙明音楽、「黒線地帯」に続く「地帯(ライン)」シリーズの第3作で、この作品はカラーだ。

 基本のストーリー構成は「黒線地帯」とほぼ同じ。罠にはめられた主人公が自分を陥れた相手を探し出すストーリーで、主人公衆木を演じるも天知茂。ただ今回は主人公が殺し屋。天知の危ない雰囲気はこちらのほうがぴったり。

 衆木が自分の生い立ちを語るのだが、孤児院の予算の貧しさで卵焼きさえ食べられなかったというのは、昔の話とはいえない現状を考えればドキッとする。そんな彼が人間不信となり、更に貧富の差と富裕層の腐敗に怨嗟をもって殺し屋となるというのも、最近の世相や不寛容の蔓延を考えるとゾッとする。

 事件に巻き込まれる女性は三原葉子。彼女が衆木に人質にされ、隙を見て百円札(もちろん当時)に拉致されたことを知らせるメッセージを書くのだが、このメッセージが書かれた紙幣が人々の手に渡り、事件を紐解く手がかりとなっていく。

 物語のなかで巻き込まれる若い女性が登場するのも「黒線地帯」と同じ。彼女が事件に巻き込まれるのがなんとも強引であっけにとられてしまうのもまた同じ。ただ、今作は主人公衆木のキャラクターを掘り下げたのと対照的に、女性キャラクターがみんななんとも不自然。リアリティがないのが辛い。

 物語中盤に登場する、神戸に設定された怪しげな歓楽街「カスバ」は、おそらくその名前から旧フランス領アルジェリアのカスバと、そこを舞台にした「望郷」からのイメージを流用したのだろうが、入り組んだ狭い路地、うらぶれて猥雑な雰囲気、そして雨、連想したのは「ブレードランナー」の雨のロスの雑踏。そういうあたりも面白い。

 ストーリーは明快で、テンポの良さは文句なし。細かいことは突っ込まず、サスペンスを楽しむ作品だろう。ただ、ラストはビターテイストだが。

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