「博士と狂人」を観る2023年02月15日 20:01

 「博士と狂人」を観る。2019年のアメリカ映画。P・B・シェムラン監督作品。主演はメル・ギブソンとショーン・ペン。

 オックスフォード英語辞典が出版される経緯にまつわる事実を描いた作品。オックスフォード大学で行き詰まった英語辞典の作成に、在野の言語学者マレーが参加し、今でいうオープンソース的手法で用例を集めることになった。そのボランティアの中にずば抜けて適切かつ高度な用例を提供するマイナーという人物がいた。ところが彼は心を病み、殺人を犯し、精神科施設に収容されてる人物だったという実話を骨子にしている。

 苦労話や秘話としては、トリビア的な面白さがある。そのあたりはトリビアを扱うバラエティ番組と類似している。だが、映画としては首を傾げるところも多い。

 マレーと妻の間には当初からどこか不穏な雰囲気が漂っている演出なのに、いざとなると妻は夫を守るために単身学者たちの会議に乗り込んで一席ぶつ。その内容が「異質な存在も認めてほしい」と、極めて現代的。舞台は19世紀末である。

 マイナーが誤って射殺した男の妻は文字が読めない。生活の補償を申し出た(マイナーはもとアメリカ軍医で、退役軍人としての年金収入が少なからずあったらしく、それを補償に当てていた)マイナーと、次第に理解し合い、好意を寄せるようになるのだが、ラストではどこかに忘れ去られたような扱い。

 マレーを追い出そうとする悪役学者も、悪役としてのステレオタイプとしては軽すぎ、リアルな人物としては造形が浅い。マレーが追い落とされそうだという危機感はあまり伝わってこない。ラストの一発逆転も、いきなり「水戸黄門の印籠」的なオチで、たしかに史実はそうだったのかもしれないが、ドラマには落とし込めていない。

 とはいえ、ダレることなく2時間強を引っ張っていく力量と、メル・ギブソンとショーン・ペンの力技一本の演技で一応の見ごたえはある。何も深く考えずに観ている分にはいい。バラエティの再現ドラマよりはずっと重厚だ。