「サンダカン八番娼館 望郷」を観る ― 2023年02月28日 20:58
「サンダカン八番娼館 望郷」を観る。1974年、熊井 啓監督作品。
主演は栗原小牧、高橋陽子、田中絹代。田中絹代の最後の映画出演作でもある。
明治から昭和初期にかけて、九州から東南アジアに人身売買された女性を取り上げた山崎朋子のルポをもとにした映画。戦後貧困生活を送る「からゆきさん」と呼ばれる、かつて身売りされ、晩年に五島に帰郷したおさきさんと知り合った東京の女性ジャーナリスト、三谷圭子。二人は3週間近くの時間、生活を共にし、母娘のような関係を築いていく。だが、圭子はおさきさんの昔話をメモにして東京の夫のもとに送り続け、そのことをおさきさんには秘密にしていた。
やがて圭子の素性が周囲に知られ、おさきさんが「村の恥をさらす」と責められているのを見て、圭子は東京に帰る決心をする。二人が過ごす最後の夜、圭子はおさきさんに「なぜ自分のような素性のしれない女と暮らしてくれたのか」と尋ねる…
壮絶と言っていいおさきさんの過去。貧困のために売られ、国の外貨獲得の道具とされ、日本が日清・日露戦争で戦勝国となって国際社会での地位が高まると、国の恥辱と蔑まれ、故郷も追われ、切り捨てられていく。昭和初期に帰郷したおさきさんの人生も戦争に翻弄され、きびしいものだったが、ボルネオ島、サンダカンに残った女性たちの運命は更に厳しかった。
ラスト、おさきさんの話の裏付けを取るために圭子が戦後のサンダカンに調査に向かい、彼女たちの共同墓地を発見する。戦災で墓標も焼け、ジャングルの中に埋もれた共同墓地を切り開き、供養する圭子がふと気づいた事実。彼女はサンダカンからおさきさんのいる日本の方に向けて、九州弁で語りかける。その言葉の重み。
覇権主義や帝国主義が何を食い物にして太り上がるのか。戦争は誰を一番犠牲にするのか。歴史ですらそういった犠牲を表に明らかにしないよう、操作されている。そんな欺瞞を剥ぎ取るのは、庶民や底辺で苦しむ人たちの声である。そしてそういう虐げられた人の中にも、無類の優しさをたたえた心を持った人がいる。
娯楽作品ではない。カウチポテトで観ることのできるような作品でもない。しかし一度は観るべき作品のひとつ。
主演は栗原小牧、高橋陽子、田中絹代。田中絹代の最後の映画出演作でもある。
明治から昭和初期にかけて、九州から東南アジアに人身売買された女性を取り上げた山崎朋子のルポをもとにした映画。戦後貧困生活を送る「からゆきさん」と呼ばれる、かつて身売りされ、晩年に五島に帰郷したおさきさんと知り合った東京の女性ジャーナリスト、三谷圭子。二人は3週間近くの時間、生活を共にし、母娘のような関係を築いていく。だが、圭子はおさきさんの昔話をメモにして東京の夫のもとに送り続け、そのことをおさきさんには秘密にしていた。
やがて圭子の素性が周囲に知られ、おさきさんが「村の恥をさらす」と責められているのを見て、圭子は東京に帰る決心をする。二人が過ごす最後の夜、圭子はおさきさんに「なぜ自分のような素性のしれない女と暮らしてくれたのか」と尋ねる…
壮絶と言っていいおさきさんの過去。貧困のために売られ、国の外貨獲得の道具とされ、日本が日清・日露戦争で戦勝国となって国際社会での地位が高まると、国の恥辱と蔑まれ、故郷も追われ、切り捨てられていく。昭和初期に帰郷したおさきさんの人生も戦争に翻弄され、きびしいものだったが、ボルネオ島、サンダカンに残った女性たちの運命は更に厳しかった。
ラスト、おさきさんの話の裏付けを取るために圭子が戦後のサンダカンに調査に向かい、彼女たちの共同墓地を発見する。戦災で墓標も焼け、ジャングルの中に埋もれた共同墓地を切り開き、供養する圭子がふと気づいた事実。彼女はサンダカンからおさきさんのいる日本の方に向けて、九州弁で語りかける。その言葉の重み。
覇権主義や帝国主義が何を食い物にして太り上がるのか。戦争は誰を一番犠牲にするのか。歴史ですらそういった犠牲を表に明らかにしないよう、操作されている。そんな欺瞞を剥ぎ取るのは、庶民や底辺で苦しむ人たちの声である。そしてそういう虐げられた人の中にも、無類の優しさをたたえた心を持った人がいる。
娯楽作品ではない。カウチポテトで観ることのできるような作品でもない。しかし一度は観るべき作品のひとつ。
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