「アンニュイ〜倦怠の季節〜」鑑賞2015年05月19日 18:58

 「アンニュイ」「倦怠」とは、なんと浅薄な邦題だろう。作品そのものを完全に誤解しているとしか思えない。

 アンナとディノ。2人は夫婦らしい。だが、ディノはアンナにベッドで触れようとしない。頑なに拒み続ける。

 実はディノ、仲の良かった兄が自殺し、その遺体を発見してしまったり、母親が捨てた父親が施設で亡くなったりと、メンタルでかなり大きなトラウマを抱えている。その結果強烈な自己嫌悪に陥って、最愛のアンナに触れることが彼女を不幸にすると思い込んでしまっている。

 最後にはアンナの昔の相手に会って、アンナとよりを戻すように頼んだり。一方で自分の欲望を、どちらかというと容姿に難がある相手にむけて吐き出したり。

 アンナの周囲は白を貴重とした清澄な世界。そしてそんなあんなに近づくディノも白い服装。しかし、ディノの白いスーツはよれよれだ。

 また、ディノの職業は麻酔科の医師。麻酔を施す患者にカウントダウンさせて、意識を落としていく日々。もちろんそこには死のイメージがつきまとう。

 オープニングとエンディングは円環構造で、暗い夜の海に、揺らめく月の影。その海の中に、ラストでディノは入っていき、そして姿を消す。

 R-15指定で、エロティックなシーンは多いが、その方面を期待すると、見事に打ちのめされる。映像イメージにも含みが多く、じっくりと読み解きながら観る作品だ。

 だからこそ、邦題もきちんと作品を読み解いてから付けて欲しかった。倦怠ではない。この作品は乱れ苦しむ魂を描いているのだから。