「神州纐纈城」読了2016年10月27日 23:44

 国枝史郎「神州纐纈城」読了。

 大正14年に発表され、未完のまま終了している、伝奇小説。ダーク・ファンタジーと言うべきか。陰惨かつ怨念、執念、欲望の渦巻くホラー小説と言ってもいい。

 時は戦国、武田信玄が統治する甲府を舞台に、人の生き血で染めぬいた紅の絹、纐纈と、それにまつわる陰惨な物語。虚実入り混じった登場人物の扱いは、現在のスチーム・パンクにも似て興味深い。

 書かれた時代が時代だけに、差別的表現や無知による誤解はやむを得ないが、さしずめ今ならゾンビ・ホラーとしても通用しそうなホラー小説の趣もある。未完だけに、当初の主人公らしきキャラクターも途中で放棄され、伏線も回収しきれていないのが惜しいが、その分この世界にどっぷり浸かって、放棄されたキャラクターのその後を想像(妄想)する楽しみもある。

 著作権が切れている作品なので、青空文庫で読むことができるのもありがたい。