「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」読了2020年11月24日 18:13

 ピーター・トライアスの「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」を読了。

 文庫(上下2巻)とHPB版が同時出版されているこのシリーズの第1作。表紙イラストには零戦的な日の丸を左肩に描いた巨大ロボット。正直キワモノ感満載の見た目。多少色眼鏡をかけて読み始めた。

 タイトルをみれば想像がつくが、第二次大戦で枢軸国側が勝利し、日本軍は核魚雷でサンノゼを攻撃、巨大二足歩行ロボットで西海岸を制圧、アメリカ東海岸はドイツが制圧し、アメリカ合衆国は消滅したという設定。フィリップ・K・ディックの「高い城の男」へのオマージュが散りばめられている。

 日本合衆国(USJ)はロサンゼルスに首都を置いているが、その当地は軍国主義そのもの。監視と弾圧、「特高」という嫌な響きの役人が闊歩し、軍人が我が物顔。そしてもちろん官僚制もきっちり敷かれ、見事に腐敗しきっている。そんなUSJで、市民は「電卓」と呼ばれるポータブル端末でネットワークに接続し、ゲームや通信を行っている。その環境の中で密かに流布しているのが、第二次大戦で連合国側が勝利したという設定のシミュレーションゲーム、「USA」。もちろんご禁制のゲームである。

 このゲームを追って、優秀だが感情の制御が不完全で暴走する、危険で思想的にコチコチの特高課員である槻野昭子と、うだつの上がらない中年に差し掛かった女たらしでぐうたら少尉(を装っている風)の石村紅功の二人がギクシャクしながら動き出す。

 二人の人間が互いを理解し合う過程を読者も追体験していくことになる。このあたりがしっかりと描かれているのが素晴らしい。ラストの一章は強い余韻を残す。

 キワモノどころか、エンターテイメントと人間ドラマがきちんと融合した佳作。