「白線秘密地帯」を観る2022年02月09日 21:52

 「白線秘密地帯」を観る。1958年の日本映画。監督は後に「網走番外地」を撮る石井輝男。

 明らかにフィルム欠損で、オープニングから欠落がある。ストーリーを追う分には大きな問題にはならないが、ボコッと飛んでしまうところははっきりわかる。

 売春防止法が始まり、それまでの公娼が崩壊し、売春が地下に潜っていった時代の組織売春犯罪と、それを追う刑事たちの話だが、競馬場や採石場などのシーンのドキュメンタリータッチの迫力には力がある。いかにも暑そうな東京の夏、足で稼ぐ刑事の仕事、リアリティは十分だ。

 今見ると、鑑識の観点からはありえないような捜査状況が気になったりする。殺害された男性にはまだ母親に甘えたい年頃の幼い息子がいるのだが、現代人の感覚からすれば、とてもそんな年格好には見えない。現代ならすでに老人である。男性の多くは帽子をかぶり、クールビズなどという洒落た言葉のない時代なのに、ノータイで働く男性も多い。東京の町並みも今とは全く違い、戦前モダニズムを体現するような不思議な建物もある。高度経済成長に差し掛かりかけていながら、まだ戦後の混乱期の雰囲気も色濃く残しているこの作品の東京は、戦前でも高度経済成長期以降でもない、まさに異世界のような東京の姿を残している。わずか4年前にゴジラが闊歩した東京ともまた違う雰囲気は、どこか不思議な世界でも見せられているような気分になる。

 後の大スターの思わぬ若い姿も見ることができる。いろんな意味で面白い作品だった。