「メッセージ」を観る2022年06月06日 22:30

 「メッセージ」を観る。2016年のアメリカ映画。

 ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品。これも縁がなかった作品だが、やっとじっくり観ることができた。

 原作はテッド・チャンの短編「あなたの人生の物語」。エイリアンの言語を研究、習得するうちに、エイリアンの思考体系が取り込まれて云々は、古くはサミュエル・R・ディレイニーの未完の作品、「バベル17」の大ネタでもあるのだが、あちらがワイドスクリーン・バロック的な大風呂敷だったのに対して、こちらはほろ苦い。

 エイリアンであるヘプタポッドにとっても、主人公のルイーズにとっても、種族全体に対しては大きな貢献をしながら、プライベートではその代償として大きな傷を背負い、大きな損失を被ることになる。

 未来を知ることができないゆえの恐怖、その恐怖が生み出す暴力。これは今まさに世界中で繰り広げられている状況そのものだ。しかし、未来を知ることができるゆえに背負わなければならないものもまた大きく、重い。

 ヴィルヌーヴ監督作品らしく、静謐な作品。ハデな音楽演出はなく、いかにもハリウッド的な盛り上げ工作などどこ吹く風。こういう作品、好みである。原作は書簡体小説で、さすがにそれは映画にするには難しいため、原作ならではの哀しみやユーモアが活かしづらくなったのは残念だが、この静謐さがルイーズの哀しみをしみじみと感じさせることにもなる。原作を知っているなら1度でも味わえるが、映画のみなら、1度目でストーリーを把握してから2度目に観ると、よりルイーズの表情の意味が伝わる。

 アメリカ映画とはいえ、主な撮影場所はカナダ、監督もカナダ人。明らかに色合いが違い、ヨーロッパ的な映画だと感じる。

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