「仮面ライダー」原作を読む2023年05月16日 22:47

 久しぶりに「仮面ライダー」原作を読む。

 ライブアクションの映像化は見事。今のマンガではアクションシーンになると何をやっているのかよくわからなくなることが多いのだが、絶妙の構図とカット割りで見通しのいい画面が続く。

 ストロボ効果は009譲りだが、コピーを使わずすべて手書き。サイクロンに乗ったライダーが大きくジャンプするときのライディングフォームの変化まで再現されているのもすごい。

 ストーリーは言わずもがな。当時の少年マンガなので、セリフが単純で子供っぽい表現がたまに出てくるのは致し方ないが、素顔とライダーの仮面とが入れ替わっているのが自分の本当の姿だという本郷の言葉は思い。一文字も本郷も、底なしの孤独に生きている。その苦しみは仮面に隠されているからこそ余計に重く伝わってくる。

 仮面についての石ノ森のとらえ方は「縄と石」(少年サンデー版佐武と市)の頃から通底している。仮面が人格であり、人格が仮面を作る。和辻の「面とペルソナ」を地で行く認識だが、平野啓一郎の「分人」という概念もまたこれに近い。無機質で表情のわからない仮面がこの作品では一番雄弁に本郷や一文字の内心を語っている。

 もしかしたらこの「仮面」のオリジナルは、あの009の片目を隠す前髪なのかももしれない。かれも完全に目を隠した横顔で語ることがあるし、中期の移民編から天使編、神々との戦いの頃の無表情も仮面を産む過程なのかもしれない。

 カタルシスのなさは石ノ森作品の定石。こういう重く読むものにのしかかる作品は、すでに今風ではなくなってしまったのだろうか。