新年2024年01月01日 10:05

 去年も年末に何やら芸能人の大忘年会が長時間放送されたそうだが、もう何十年も見たことがない。「日本の心」などと大嘘八百のド演歌は悪寒が走るほど嫌いだし、罵詈雑言や薄っぺらい語彙で埋め尽くされたリアル海苔波形の曲もお腹いっぱい。劣化した往年の歌手のライブ放送より、かつての録音音源のほうが上というのもまた事実。いつ出るかわからないお目当てのアーティストのわずか数分のパフォーマンスを待つには、辛い内容が多すぎる。

 年始となれば芸のかけらもない芸人もどきの内輪の新年会があちこちで放送されるのも例年通り。初笑いどころか怒りすら感じてしまう。腐敗しきったスポーツ界が支配するコンテンツなど不愉快千万。そうでなくとも世界は暗い。確かに罵詈雑言を乱れ打ちして四つ打ちトランス状態になって叫びたいような世相ではある。そしてここ数年、ヒットした曲はその後の世相のマイナス面をはっきりと表している。

 だからこそ、年末年始は極力TVに近づくのをやめたい。数日という少しの間ぐらいほんわかした夢にたゆたってもいいではないか。

Technics EAH-AZ80を購入2023年12月29日 20:28

 Technics EAH-AZ80を購入した。復活後はほぼ全製品が受注生産となっているTechnics製品の中で、お近くの家電店で購入できる希少な製品。

 入院中はスマホ(病院内はWi-Fi環境があったので本当に助かった)にaudiotechnicaのATH-LS50を挿してラジオや音楽を聴いていた。これはこれで文句のない音だったのだが、なにせ有線。首に絡み、腕に絡みと、病室のベッドに寝転がって聴くにはケーブルの取り回しが気になっていた。

 とはいえ、お値段が3万円台中盤。これはかなり懐具合に響く。逡巡したのだが、エイヤッと思い切って近くの家電量販店へ。基本色のシルバーは売り切れ。こんな地方でこんな価格のBluetoothイヤホンをそんなに買う客がいるのかと訝ってしまった。さいわい黒は在庫あり。早速タグを持ってレジに向かおうとすると、店員さんが途中でそれを受け取ったやいやや、「これ、すごくいいんですよ!研修のお試しで一度使ってみたんですけど、びっくりするぐらい。次のお給料が出たら私も買おうかなって思ってます!」と、まあありえないほどの食いつきっぷり。どうやら前評判に違わず、いけそうな気分になった。

 ノーマルモードと、ハイレゾではLDACのみ対応なので、LDAC対応機器でないと本領は発揮できないのだろうかと思ったが、幸いAndroid(私はある過去の経験からappleを信用していない)はLDAC対応、Kindle Fireも同様なので問題ないだろうと判断。ともかくまずは帰宅して、スマホとペアリング。なんともあっけなくペアリング終了。再生アプリは当然Technics music app。一聴した感想は、アプリと全くと言っていいほど同じスタンスの再生音だということ。音像が広く、空間再現能力が高く、それでいて音楽が散漫にならない。悪い録音は悪く、よい録音はよく、よいマスタリングは心地よく、ろくでもないマスタリングはろくでもなく再生する。いや、若干ろくでもないマスタリングも聴きやすくなるか。それならそれで問題ない。

 羊文学の「our hope」を聴くと、明らかに「光るとき」のマスタリングのろくでもなさが際立つ。アニメの主題歌となった時点で、その業界特有のマスタリングがなされているのだろうと想像できるぐらい、他の曲とのマスタリング差がはっきりする。しかしそれでも今まで気になった音割れやがなりたてるようなシンセ音のトゲトゲしさはやや後退する。

 JAZZやClassicも聴いてみたが、音質傾向はやはり同様で、音楽としての「ノリ」も感じられて、なかなか。スマホアプリでの制御もわかりやすい。と、ここまで聴いていてふとLDACの設定ができていなかったことに気づく。つまりここまでの印象はノーマルモードのBluetooth音質ということだ。プアと言われるこのモードでこの音質ということにまず驚愕。慌ててLDAC再生モードに設定し直して再度視聴。

 意外なことに、たしかに再生音質に差はあるが、ぼやっと聴いていると果たしてわかるかどうか。音場感、空気感は確かにLDACに軍配が上がるが、それがないとやってられないほどの差ではない。アニソン海苔波形の曲ならおそらくソース段階でぶっ潰れていて判定できないほどのニュアンスの違いだろう。アプリといいこの製品といい、Technicsはハイレゾだ高音質規格だと言う前に、もっとやるべきことがあるのだと主張しているように思える。

 Kindle Fireにペアリングして映画を視聴する。これもいい感じ。Bluetoothでよく言われる遅延は、少なくともまったく気になならなかった。もちろんLDAC対応。ただ、Amazon musicはBluetoothに対してはサンプリングはCDレベル止まり。だが前述の通り、これで不満が出るような再生はしない。

 Nintendo Switch Liteにもペアリング。当然LDACはないし、ゲームでは遅延の問題もあるのだろうが、「スイカゲーム」に遅延問題など影響なし。というより、ゲームスタートした途端、ゲームを忘れてBGMに聴き入ってしまった。こんなにいい音だったのかと再認識。家人に聞かせると、思わず笑いだしてしまうほどの高音質だ。

 アンビエントモードもなかなか秀逸。通話も問題なくできる。アプリを使えばイヤピースの最適化診断もできるし、装着していても圧迫感は皆無なのに、安定してフィットする。ネット上の画像では黒はややプラスチック感を感じたが、あれは写真写りが良くなかったのだろう。実機はどっしりとして質感も十分。電波の掴みもしっかりしていて音切れもない。なんと言っても思わず笑ってしまうほどの音の良さはTechnics music app同様。あのアプリはまさに無料でTechnicsの音を試すことができる仮想ショールームのようなものだったと実感。

 3万円台中盤(値引きなし!)の価値は十分ある。それに見合う音源を持っているなら。それに見合う音源を持っている人なら、価値は実感できるだろう。今にして思えば、安い買い物だった。

アナログレコードは音がよい?2023年11月23日 20:04

 巷ではアナログレコードは音がよいと言われているようだ。しかし、アナログレコードの音はCD以前から変わってはいない。

 技術的進歩はあったにしても、今の大衆が手にするアナログレコードの再生システムは、申し訳ないが「鳴っている」レベルであって、80年代のアナログ全盛期の、ちょっとしたステレオと称する装置を持っていた音楽好きが耳にしていた音のレベルとはとても言えない。ピックアップ(カートリッジ)の性能を考えれば、80年代であってもロースペックの内に入るのは間違いない。イコライザはオペアンプやデジタル処理で精度こそ向上しているだろうが、アナログ時代でも十分な精度は出ていたわけだから、劇的な音質向上はとても考えられない。80年代のミニコンポのアナログ再生と大差ないか、あるいはそれ以下(お稽古用・あるいは学校行事用レコードプレーヤー)の再生環境と考えるべきだろう。

 それでも「音がよい」というのなら、その原因はただ一つ。その他の音源の音がそれ以下であるということだ。

 経済力の低い若者はYouTubeから流れてくる、ビットレートのさほど高くないmp3データを、スマホで再生して聞くのが主流だ。音源と称してYouTubeのmp4ファイルから音声のmp3を引き出す程度ということだ。Spotifyはハイレゾ対応をする気配がない。サブスクでハイレゾ配信などと謳っても、大多数の人はアクセスしない。音楽の主力消費対象である若者のうち、経済的に自立していない未成年の大半はこれらのサブスクにはアクセスしづらい。若者の多くが音楽を享受している配信においては、ただ「鳴ってる」レベルのアナログレコード以下の音質しか提供されていないということだ。

 まあ、80年代エアチェック全盛期のFM放送音源は、明らかにアナログレコードに劣っていたのだから、驚くには値しない。アナログレコードの音を、攻め込んだカセットテープ録音で再生するほうが、FM放送より音質的に優位でもあった。

 ただ、現代ではことはそう単純ではない。いくら忘れられつつあるとはいえ、CDの存在は無視できない。だが、クラシックはネット上では「オーオタ」と侮蔑を込めて呼ばれる愛好者層しか聞かないらしいし、ジャズもまた然り、洋楽にも触手が動かない若者層にとっては、音楽はJ-POPかK=POP辺りとなるだろう。K-POPは(なぜか反りが合わないので)コメントすることができないが、J-POPに関しては、コマーシャリズムの圧力で「音圧主義」がいまだに幅を利かせている。かつての洋楽ヒップホップでも「音圧主義」主流時代はあったし、その時のあの窒息しそうなほどの息苦しいベースビートは閉口したものだが、現在はその悪弊は影を潜め、タイトでシャープなビートで風通しがよくなった。J-POPはその変化に対応していないようで、はっきり言ってしまえばほとんどのCDは「音割れ」している(リマスターと称して旧盤をわざわざ音割れさせているものまである)。音作りもベッタリと厚塗りで、もはや威圧感としてはノイズ系ジャズと大差ない(が、ノイズ系ジャズは厚塗りでは決してない)。これではCDが先細りになるのは当然だろう。再生側がダルな再生をすれば、割れた音も厚塗り音圧でマスクしてごまかせるということか。ならばバカ正直なCDプレーヤーではなく、非可逆圧縮で音質を劣化させたmp3の配信の方が音割れ発覚リスクは少ない。

 アナログレコードには音圧主義は(物理的にも難しいのだろう)あまり侵食していないようだし、中古盤にはもちろんそんな味付けはなされていない。アナログレコードだから音がよいのではない。それ以外の楽曲の音が悪すぎるのだ。音割れ音源など、商品以前の代物だと思う。

 では、いまの配信を中心とした楽曲の音はダメなのかというと、一概にそうとも言えない。スマホでmp3音源の音楽を聞くにしても、「Technics audio app」で再生すると全く別次元の音楽再生が普通のスマホで体験できる(ダメな録音や音割れ音源、ドンシャリ音も素直にそのとおり、不愉快な音やドンシャリ音で再生する)。これならアナログレコードとも十分渡り合えそうだ。どうやら配信(そしてデジタル)音源の再生側には、まだまだ大きな問題が横たわっていると思われる。

 アナログレコードで最低限の「いい音」を体験するのはいいことだ。我が家でも昔、80年代のアニソン(当時ヒットしたpops)を家人にシングルレコードで再生して聞かせたことがある。普段mp3音源ばかり聞いていた家人が腰を抜かさんばかりに驚いて「すごい!」と叫んだものだが、アナログ時代のごく標準的な再生音質である(当然当時のアニソンや日本のpopsの業界内での扱いを考えれば、録音もさほど高いクオリティではない)。

 標準より日常が劣っていることを知れば、日常を向上させたいという機運は起きてくるのではないだろうか。正しい標準を知ることは、こと音楽だけではなく、あらゆることにつながるように思える。


便利?不幸?2023年11月15日 21:55

 ひょんなことから短期間で2度も入院することになってしまった。

 入院期間は合計で2週間強だが、自宅療養も含めるとトータルで3週間以上の休みをとることになった。とはいえ、少々の仕事は病院からでも自宅からでもネット経由でこなせる。

 これは便利で幸せなことなのか、それとも逆に不幸なことなのか。こちらは仕事を休む罪悪感から少しでも逃れられて好都合と思っていたが、他人からは「病院に入院中にも仕事をするのはいかがなものか」とも言われる。そう言われればたしかにそうだ。

「ゴジラ -1.0」を観る2023年11月14日 21:08

 「ゴジラ -1.0」を観る。

 山崎貴監督ということで、過去の作品を思い返すと正直不安があった。なにせあの「ヤマト」をやってしまったのだから。

 とはいえ、今回は東宝丸抱えコンテンツ。TV局の介入もなければ、某芸能プロダクションの介入もない。その結果かどうかはわからないが、文句なしの作品に仕上がっている。

 昭和22年という設定でゴジラと対峙するにあたり、東宝お得意のパラボラ兵器やら、空飛ぶメタリックダンゴムシやら、かなり無理筋の秘密兵器(というより薬品か?)は登場しない。当時現実に存在した武器や道具で立ち向かうというところもいい。

 なにより、ドラマパートが怪獣映画にありがちな取ってつけたような学芸会ドラマではないのがいい。特殊な能力をもった人間がいるわけでもなく、天才がいるわけでもない。背後に戦争を背負い、苦しんでいる等身大の人間ばかりというのは、考えてみればこれまでのゴジラ映画ではなかったような気がする。

 深読みやもやもやが残る仕掛けも秀逸。何もかもスッキリチャンチャンではゴジラ映画としては残念だが、そこも抜かりない。今どきの早送り視聴・タイパ大好き世代がこのドラマパートにどれだけ対応できるのかは不安だが。描写されない「行間(画面間か?)」を想像できるかどうかがこの映画を楽しめるかどうか、正しく受容できるかどうかに影響するのは間違いない。敗戦直後という過去を観る側がどれだけ感受できるか。

 そしてなんと言ってもゴジラ。サイズこそ前作シン・ゴジラより小ぶりだが、とにかく怖い。徹底して凶暴。とても人類の味方になどなりそうもない。我々は人類や地球の守り神としてのゴジラを欲しているわけではないということがよくわかる。そういう「ガメラ的ゴジラ」はアメリカに任せておこう。彼らのいう「ゴジラ」は「VSゴジラ」であって、やはり初代ではないのだろうから。