Technics EAH-AZ80を購入2023年12月29日 20:28

 Technics EAH-AZ80を購入した。復活後はほぼ全製品が受注生産となっているTechnics製品の中で、お近くの家電店で購入できる希少な製品。

 入院中はスマホ(病院内はWi-Fi環境があったので本当に助かった)にaudiotechnicaのATH-LS50を挿してラジオや音楽を聴いていた。これはこれで文句のない音だったのだが、なにせ有線。首に絡み、腕に絡みと、病室のベッドに寝転がって聴くにはケーブルの取り回しが気になっていた。

 とはいえ、お値段が3万円台中盤。これはかなり懐具合に響く。逡巡したのだが、エイヤッと思い切って近くの家電量販店へ。基本色のシルバーは売り切れ。こんな地方でこんな価格のBluetoothイヤホンをそんなに買う客がいるのかと訝ってしまった。さいわい黒は在庫あり。早速タグを持ってレジに向かおうとすると、店員さんが途中でそれを受け取ったやいやや、「これ、すごくいいんですよ!研修のお試しで一度使ってみたんですけど、びっくりするぐらい。次のお給料が出たら私も買おうかなって思ってます!」と、まあありえないほどの食いつきっぷり。どうやら前評判に違わず、いけそうな気分になった。

 ノーマルモードと、ハイレゾではLDACのみ対応なので、LDAC対応機器でないと本領は発揮できないのだろうかと思ったが、幸いAndroid(私はある過去の経験からappleを信用していない)はLDAC対応、Kindle Fireも同様なので問題ないだろうと判断。ともかくまずは帰宅して、スマホとペアリング。なんともあっけなくペアリング終了。再生アプリは当然Technics music app。一聴した感想は、アプリと全くと言っていいほど同じスタンスの再生音だということ。音像が広く、空間再現能力が高く、それでいて音楽が散漫にならない。悪い録音は悪く、よい録音はよく、よいマスタリングは心地よく、ろくでもないマスタリングはろくでもなく再生する。いや、若干ろくでもないマスタリングも聴きやすくなるか。それならそれで問題ない。

 羊文学の「our hope」を聴くと、明らかに「光るとき」のマスタリングのろくでもなさが際立つ。アニメの主題歌となった時点で、その業界特有のマスタリングがなされているのだろうと想像できるぐらい、他の曲とのマスタリング差がはっきりする。しかしそれでも今まで気になった音割れやがなりたてるようなシンセ音のトゲトゲしさはやや後退する。

 JAZZやClassicも聴いてみたが、音質傾向はやはり同様で、音楽としての「ノリ」も感じられて、なかなか。スマホアプリでの制御もわかりやすい。と、ここまで聴いていてふとLDACの設定ができていなかったことに気づく。つまりここまでの印象はノーマルモードのBluetooth音質ということだ。プアと言われるこのモードでこの音質ということにまず驚愕。慌ててLDAC再生モードに設定し直して再度視聴。

 意外なことに、たしかに再生音質に差はあるが、ぼやっと聴いていると果たしてわかるかどうか。音場感、空気感は確かにLDACに軍配が上がるが、それがないとやってられないほどの差ではない。アニソン海苔波形の曲ならおそらくソース段階でぶっ潰れていて判定できないほどのニュアンスの違いだろう。アプリといいこの製品といい、Technicsはハイレゾだ高音質規格だと言う前に、もっとやるべきことがあるのだと主張しているように思える。

 Kindle Fireにペアリングして映画を視聴する。これもいい感じ。Bluetoothでよく言われる遅延は、少なくともまったく気になならなかった。もちろんLDAC対応。ただ、Amazon musicはBluetoothに対してはサンプリングはCDレベル止まり。だが前述の通り、これで不満が出るような再生はしない。

 Nintendo Switch Liteにもペアリング。当然LDACはないし、ゲームでは遅延の問題もあるのだろうが、「スイカゲーム」に遅延問題など影響なし。というより、ゲームスタートした途端、ゲームを忘れてBGMに聴き入ってしまった。こんなにいい音だったのかと再認識。家人に聞かせると、思わず笑いだしてしまうほどの高音質だ。

 アンビエントモードもなかなか秀逸。通話も問題なくできる。アプリを使えばイヤピースの最適化診断もできるし、装着していても圧迫感は皆無なのに、安定してフィットする。ネット上の画像では黒はややプラスチック感を感じたが、あれは写真写りが良くなかったのだろう。実機はどっしりとして質感も十分。電波の掴みもしっかりしていて音切れもない。なんと言っても思わず笑ってしまうほどの音の良さはTechnics music app同様。あのアプリはまさに無料でTechnicsの音を試すことができる仮想ショールームのようなものだったと実感。

 3万円台中盤(値引きなし!)の価値は十分ある。それに見合う音源を持っているなら。それに見合う音源を持っている人なら、価値は実感できるだろう。今にして思えば、安い買い物だった。

アナログレコードは音がよい?2023年11月23日 20:04

 巷ではアナログレコードは音がよいと言われているようだ。しかし、アナログレコードの音はCD以前から変わってはいない。

 技術的進歩はあったにしても、今の大衆が手にするアナログレコードの再生システムは、申し訳ないが「鳴っている」レベルであって、80年代のアナログ全盛期の、ちょっとしたステレオと称する装置を持っていた音楽好きが耳にしていた音のレベルとはとても言えない。ピックアップ(カートリッジ)の性能を考えれば、80年代であってもロースペックの内に入るのは間違いない。イコライザはオペアンプやデジタル処理で精度こそ向上しているだろうが、アナログ時代でも十分な精度は出ていたわけだから、劇的な音質向上はとても考えられない。80年代のミニコンポのアナログ再生と大差ないか、あるいはそれ以下(お稽古用・あるいは学校行事用レコードプレーヤー)の再生環境と考えるべきだろう。

 それでも「音がよい」というのなら、その原因はただ一つ。その他の音源の音がそれ以下であるということだ。

 経済力の低い若者はYouTubeから流れてくる、ビットレートのさほど高くないmp3データを、スマホで再生して聞くのが主流だ。音源と称してYouTubeのmp4ファイルから音声のmp3を引き出す程度ということだ。Spotifyはハイレゾ対応をする気配がない。サブスクでハイレゾ配信などと謳っても、大多数の人はアクセスしない。音楽の主力消費対象である若者のうち、経済的に自立していない未成年の大半はこれらのサブスクにはアクセスしづらい。若者の多くが音楽を享受している配信においては、ただ「鳴ってる」レベルのアナログレコード以下の音質しか提供されていないということだ。

 まあ、80年代エアチェック全盛期のFM放送音源は、明らかにアナログレコードに劣っていたのだから、驚くには値しない。アナログレコードの音を、攻め込んだカセットテープ録音で再生するほうが、FM放送より音質的に優位でもあった。

 ただ、現代ではことはそう単純ではない。いくら忘れられつつあるとはいえ、CDの存在は無視できない。だが、クラシックはネット上では「オーオタ」と侮蔑を込めて呼ばれる愛好者層しか聞かないらしいし、ジャズもまた然り、洋楽にも触手が動かない若者層にとっては、音楽はJ-POPかK=POP辺りとなるだろう。K-POPは(なぜか反りが合わないので)コメントすることができないが、J-POPに関しては、コマーシャリズムの圧力で「音圧主義」がいまだに幅を利かせている。かつての洋楽ヒップホップでも「音圧主義」主流時代はあったし、その時のあの窒息しそうなほどの息苦しいベースビートは閉口したものだが、現在はその悪弊は影を潜め、タイトでシャープなビートで風通しがよくなった。J-POPはその変化に対応していないようで、はっきり言ってしまえばほとんどのCDは「音割れ」している(リマスターと称して旧盤をわざわざ音割れさせているものまである)。音作りもベッタリと厚塗りで、もはや威圧感としてはノイズ系ジャズと大差ない(が、ノイズ系ジャズは厚塗りでは決してない)。これではCDが先細りになるのは当然だろう。再生側がダルな再生をすれば、割れた音も厚塗り音圧でマスクしてごまかせるということか。ならばバカ正直なCDプレーヤーではなく、非可逆圧縮で音質を劣化させたmp3の配信の方が音割れ発覚リスクは少ない。

 アナログレコードには音圧主義は(物理的にも難しいのだろう)あまり侵食していないようだし、中古盤にはもちろんそんな味付けはなされていない。アナログレコードだから音がよいのではない。それ以外の楽曲の音が悪すぎるのだ。音割れ音源など、商品以前の代物だと思う。

 では、いまの配信を中心とした楽曲の音はダメなのかというと、一概にそうとも言えない。スマホでmp3音源の音楽を聞くにしても、「Technics audio app」で再生すると全く別次元の音楽再生が普通のスマホで体験できる(ダメな録音や音割れ音源、ドンシャリ音も素直にそのとおり、不愉快な音やドンシャリ音で再生する)。これならアナログレコードとも十分渡り合えそうだ。どうやら配信(そしてデジタル)音源の再生側には、まだまだ大きな問題が横たわっていると思われる。

 アナログレコードで最低限の「いい音」を体験するのはいいことだ。我が家でも昔、80年代のアニソン(当時ヒットしたpops)を家人にシングルレコードで再生して聞かせたことがある。普段mp3音源ばかり聞いていた家人が腰を抜かさんばかりに驚いて「すごい!」と叫んだものだが、アナログ時代のごく標準的な再生音質である(当然当時のアニソンや日本のpopsの業界内での扱いを考えれば、録音もさほど高いクオリティではない)。

 標準より日常が劣っていることを知れば、日常を向上させたいという機運は起きてくるのではないだろうか。正しい標準を知ることは、こと音楽だけではなく、あらゆることにつながるように思える。


ウゴルスキ逝去2023年09月07日 20:56

 アナトール・ウゴルスキが逝去。

 神童と呼ばれながら、ソ連でシェーンベルクやブーレーズといった現代音楽を演奏したため当局に睨まれ、閑職に追いやられ、ソ連崩壊後の混乱で迫害を受け、1990年にドイツの難民キャンプで紙鍵盤でしか練習ができないという苦境に沈んでいたが、たまたま存在が発見され、1991年にドイツ・グラモフォン専属となり、西側にデビューしたという、遅咲きの天才だった。

 「展覧会の絵」のラスト、キエフの大門の冒頭がクレッシェンドで始まるなど、当時の一般的な解釈とは違う、それでいて説得力のある演奏が新鮮だった。メシアンの「鳥のカタログ」は今でも名盤の誉れ高い。

 後にウゴルスキは録音活動から離れ、教育現場に身をおいたようだ。グラモフォンからも離れ、ずいぶん経ってからスクリャービン全集を発表したが、それから後の消息は伝わってこなかった。

 享年80歳。政治と時代に翻弄される波乱の障害だった。冥福を。

デスクトップのパワーアンプ2023年08月02日 22:05

 デスクトップでPCやBDプレーヤーやVolumioを受けているパワーアンプが、ついにダウンしたかと思われた。

 パワーアンプはKENWOODのA-M70.小さくて安価なので、2台購入し、片チャンネルだけを使ってモノアンプとして使ってきた。しかし、なにせ1991年製の、メインストリームから離れたニッチ的製品(BOSE101を狙ったものだとも言われている)。もはや30年超えの歴戦の老戦士である。

 その2台のうちの一台が、いきなりボリュームを上げたと思ったら音割れ、数秒で元に戻ってはまた音割れを繰り返すようになった。ボリューム調整は効くので、入力スイッチと入力抵抗とが不調を起こしているらしい。バラして修理するにはちと老体すぎるような気もして、いよいよ2台共引退させるか(ちなみにもう一台もすでに片チャンネルはダウンしている)とも思ってみたが…

 エラーを起こしたのは左チャンネル。入力を右チャンネルに変更し、スピーカーも右チャンネルに再接続すると…見事に問題クリア。

 老戦士、まだまだ頑張ってくれそうだ。

夏の音楽2023年07月11日 21:45

 夏の声が聞こえてくると、夏の音楽が聞きたくなる。

 もっとも、年を取るにつれて好みは変わってくるわけだが。子供の頃、夜店で入った店の冷房の匂いと一緒に記憶に残っているハワイアン音楽やボサノバ、友人の家で聞いた、我が家では考えられないようなクールな高音質のポップスや洋楽、シンセサウンド。そういった70年代あたりの音楽環境が浮かんでくるのは、やはり年齢のせいだろう。

 アンビエントな編曲で、広さと涼しさ(場合によっては心地よい冷たさ)を感じさせる曲…考えてみれば自分の好みの音はそこにあるようにも思う。