「アルトゥーロの島」「モンテ・フェルモの丘の家」読了2015年03月04日 22:27

 「アルトゥーロの島」「モンテ・フェルモの丘の家」を読了。

 「アルトゥーロの島」は、どうしようもない、ハンサムな父親を絶対偶像視する少年が、大人への移行を遂げる2年の間の告白。教育も受けず、イタリアの孤島で本と自然とめったに帰らない偶像化された父親と過ごす少年アルトゥーロ。その生活はわずか数歳しか違わない父の再婚相手の出現で揺らぎはじめる。

 アルトゥーロの暴走ぶりがなんとも。自分ではいっぱしの人物のようなつもりの告白文だが、突き放してみてしまうと、なんとも未熟でおめでたい。そして現実の(大人の)世界は、暗雲垂れ込める戦争と闇と混乱の中に進もうとしている。大人になることがバラ色ではないという世界観は、現代とも通ずるものだろう。

 「モンテ・フェルモの丘の家」は、打って変わって大人の物語。すべてが登場人物たち相互の書簡の体裁となっている。そしてその書簡の中身が、それぞれ微妙にずれている。同じ事件に言及しながら、微妙な見解のずれがあり、そこに登場人物たちのエゴや偽り、虚無や絶望が現れてくる。

 わずか数年の間に移り変わっていく、かつて若い頃共同で擬似家族を形成していた男女。すでに若くもなく、かつての関係も次第に変質し、崩壊してく。若い世代は不条理なまでの暴力によって破壊され、解体していく主人公たちの擬似家族を繋ぎ止めるものはない。

 「アルトゥーロの島」が、第二次大戦前夜の不安な世界を描くのに対して、「モンテ・フェルモの丘の家」は第二次大戦後の現在の家族や社会の崩壊を描いている。なんとも寂しい、そんな2作だった。