ウルフ「灯台へ」/リース「サルガッソーの広い海」読了2015年03月23日 23:19

 ヴァージニア・ウルフの「灯台へ」、ジーン・リースの「サルガッソーの広い海」を読了。

 「灯台へ」は、精緻な意識の流れと複数の登場人物の語りの重奏やシームレスな推移が特徴だった。正直少々苦戦した。オペラなら重唱や輪唱、フーガ的な手法なのだろうが、リニアな情報伝達手段である小説では、やはり軽く読むには敷居が高い。「ヴァージニア・ウルフなんて怖くない」なんて本もあったが、いやいや、なかなか手強かった。

 だからといって敬遠するのはもったいない。時代の移り変わり、世代の移り変わり、喪失の哀しみと、明日への希望とが渾然一体となったこの作品の読後感は爽やかである。

 「サルガッソーの広い海」は、それに比べると、遥かに普通のスタイルの小説(ただし第三部はそうは行かないが…)だ。「ジェイン・エア」を本歌取りしている作品だが、それを知らなくても十分楽しめる(が、知っていればさらに楽しめる)。

 人の中に狂気があるのではなく、周囲や社会が人を狂気に追い込んでいく。しかし、周囲や社会もまたある意味で狂気を孕んでおり、そこにはすでに善悪などいう牧歌的な二元論ではどうにもならない闇がある。テーマは重く、それでいて世界は美しく、またグロテスクでもある。

 我々には植民地生まれという存在の位相がよくわからない(わかるほどの長い期間、日本は植民地的な場所を保ち得なかった)。「サルガッソーの広い海」や、デュラスの「太平洋の防波堤」などを読むと、植民地生まれのヨーロッパ人の不安定な位相が伝わってくる。

 よい小説だった。しかし疲れた。ぶっ飛んだSF小説が読んでみたくなった(ブラウンとか、シェクリー、ラファティあたりがいいなぁ…)