「サイバー・ショーグン・レボリューション」読了 ― 2021年02月23日 17:41
ピーター・トライアスのユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパンシリーズ(以下USJシリーズ)の最終巻である3巻目、「サイバー・ショーグン・レボリューション」を読了。USJシリーズの長編はこれでひとまず完結とのことだが、スピンオフ中短編を執筆する可能性はあるらしい。
前作「メカ・サムライ・エンパイア」から25年後の2014年のUSJが舞台となる。前作の青春成長物語とは違い、1作目の「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」に近い雰囲気で、主人公の二人も30絡みの大人。主人公の一人、守川励子はテロで腕を失い、その後遺症でメカ設計技師の夢を絶たれ、特殊装備を施されたメカ「カタマリ號」を愛機として、軍内部の反乱組織「戦争の息子たち」に参加、指導者の指示で、ナチスと結託し、腐敗しきった現USJ総督多村の暗殺に向かう。暗殺計画は失敗するが、謎の暗殺者「ブラディマリー」によって暗殺は実行される。
もうひとりの主人公、若名ビショップは1作目「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」で罠にはめられ、非業の死を遂げた若名将軍の息子。彼は「ブラディマリー」とともに参加した軍事作戦でナチスの捕虜となり、精算な拷問を生き延び、そのトラウマに苦しみながら、特高にスカウトされる。スカウトしたのは、全作に皆勤登場の特高課員、槻野昭子。管理職として若名の上司となる。
クーデターは成功したかに見えたが、その後の激しい粛清で雲行きは怪しい。「ブラディマリー」はそんな中で公然と「戦争の息子たち」に反旗を翻し、テロを開始する。守川の同士や親友だった名メカ・パイロットたちが「ブラディマリー」の側に立ち、無差別テロを実行する。それを阻止する守川も若名も窮地に追い込まれながら、必ず犠牲者を一人助けるという「ブラディマリー」によってなぜか数度救われる。
やがて市街でのメカ戦に。テロで基地を襲われ、同僚を失い、自らも足を負傷して自由に動けない「範子」を助けて、守川と若名もメカに乗り込み、圧倒的不利な戦いに赴いていく。そして「範子」が救援を求めたのは、大阪弁で辛辣な言葉を吐き、ソーセージをかじりながら天才的に戦う「K」。
前作のキャラクターも呼び込みながら、物語は「ブラディマリー」の正体へと…これ以上はネタバレ。だが、随所に伏線はきちんとはられているので、注意深く読めば途中で気づく向きもあるだろう。
新☆ハヤカワSFシリーズ版にはスピンオフの短編「ユナイテッド・ステイツ・オブ・クジラ」(そう、あの久地樂!)の一部も収録されている。舞台は少年久地樂が昭子に引き取られた時代、「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」の後、「メカ・サムライ・エンパイア」の前となる。また、この版の口絵には一枚、日の丸をあしらったバイクに乗る女性のイラストがあるが、本編にはこの場面は存在しない。GIZMODOのサイト(https://www.gizmodo.jp/2020/09/cyber-shogun-revolution.html)には、「サイバー・ショーグン・レボリューション」の校正段階でカットされた冒頭部が訳出されており、この部分の一部がイラスト化されている。この失われた部分に登場するメカ・パイロットの名前はなんと「不二本グリゼルダ大佐」。誠はグリセルダとめでたくゴールインした模様。苦労した誠にはご褒美があったわけだ。
B級の皮を被ったA級SF三部作。終わるのは惜しいが、それも去り際か。スッキリしないラストこそ、苦いこの作品世界を象徴している。
前作「メカ・サムライ・エンパイア」から25年後の2014年のUSJが舞台となる。前作の青春成長物語とは違い、1作目の「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」に近い雰囲気で、主人公の二人も30絡みの大人。主人公の一人、守川励子はテロで腕を失い、その後遺症でメカ設計技師の夢を絶たれ、特殊装備を施されたメカ「カタマリ號」を愛機として、軍内部の反乱組織「戦争の息子たち」に参加、指導者の指示で、ナチスと結託し、腐敗しきった現USJ総督多村の暗殺に向かう。暗殺計画は失敗するが、謎の暗殺者「ブラディマリー」によって暗殺は実行される。
もうひとりの主人公、若名ビショップは1作目「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」で罠にはめられ、非業の死を遂げた若名将軍の息子。彼は「ブラディマリー」とともに参加した軍事作戦でナチスの捕虜となり、精算な拷問を生き延び、そのトラウマに苦しみながら、特高にスカウトされる。スカウトしたのは、全作に皆勤登場の特高課員、槻野昭子。管理職として若名の上司となる。
クーデターは成功したかに見えたが、その後の激しい粛清で雲行きは怪しい。「ブラディマリー」はそんな中で公然と「戦争の息子たち」に反旗を翻し、テロを開始する。守川の同士や親友だった名メカ・パイロットたちが「ブラディマリー」の側に立ち、無差別テロを実行する。それを阻止する守川も若名も窮地に追い込まれながら、必ず犠牲者を一人助けるという「ブラディマリー」によってなぜか数度救われる。
やがて市街でのメカ戦に。テロで基地を襲われ、同僚を失い、自らも足を負傷して自由に動けない「範子」を助けて、守川と若名もメカに乗り込み、圧倒的不利な戦いに赴いていく。そして「範子」が救援を求めたのは、大阪弁で辛辣な言葉を吐き、ソーセージをかじりながら天才的に戦う「K」。
前作のキャラクターも呼び込みながら、物語は「ブラディマリー」の正体へと…これ以上はネタバレ。だが、随所に伏線はきちんとはられているので、注意深く読めば途中で気づく向きもあるだろう。
新☆ハヤカワSFシリーズ版にはスピンオフの短編「ユナイテッド・ステイツ・オブ・クジラ」(そう、あの久地樂!)の一部も収録されている。舞台は少年久地樂が昭子に引き取られた時代、「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」の後、「メカ・サムライ・エンパイア」の前となる。また、この版の口絵には一枚、日の丸をあしらったバイクに乗る女性のイラストがあるが、本編にはこの場面は存在しない。GIZMODOのサイト(https://www.gizmodo.jp/2020/09/cyber-shogun-revolution.html)には、「サイバー・ショーグン・レボリューション」の校正段階でカットされた冒頭部が訳出されており、この部分の一部がイラスト化されている。この失われた部分に登場するメカ・パイロットの名前はなんと「不二本グリゼルダ大佐」。誠はグリセルダとめでたくゴールインした模様。苦労した誠にはご褒美があったわけだ。
B級の皮を被ったA級SF三部作。終わるのは惜しいが、それも去り際か。スッキリしないラストこそ、苦いこの作品世界を象徴している。
「メカ・サムライ・エンパイア」読了 ― 2021年02月21日 14:36
ピーター・トライアス「メカ・サムライ・エンパイア」読了。
前作「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」の数年後が舞台となり、主人公も高校生に変わって、ハインラインの「宇宙の戦士」のような成長物語となっている。
主人公、不二本誠は両親を前作の抗争事件で失った孤児。いわゆるオタクで小太り、ゲームびたり。でもどこか真面目で負けず嫌い。オタク仲間の友達秀記と、ドイツからの女子留学生グリセルダと日々を過ごしている。巨大ロボット兵器「メカ」のパイロット志望だが、彼の行くところ修羅場が常に待っている。
士官学校の入学試験ではテロリストのために友人を失い、実技試験では個人的偏見を持った試験官の嫌がらせにあうなど散々。だがエリート街道をゆく女子優等生範子の助けを得て第二の進路を見つけることができる。そこでの地獄のような訓練を経て、友人もできた。ドイツに戻ったグリセルダと再会するが、ナチス政権のドイツと日本合衆国は険悪で、グリセルダとの交友が原因でリンチにあうなど、なかなかいいことがない。
そんな誠が公式任務で赴いたのはナチスとの国境、そこでまたまた過酷な運命が待っている…
とにかく誠の行くところ、修羅場と殺戮と破壊のオンパレード。つかの間の幸せをことごとく叩き潰す出来事が連続するが、そんななかでも人とつながり、立ち上がり、這い上がってく姿がいい。前作に登場した特高の槻野昭子もいい味を出している。また、前作ラストで活躍した少年メカパイロット、久地樂が相変わらずの傍若無人っぷりで登場するのも嬉しいところ。
前作とはカラーは少し違い、メカバトルもたっぷり。権謀術数そのものより、それに振り回されながらたくましく生きる若者たちの姿には明るさがある。
前作「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」の数年後が舞台となり、主人公も高校生に変わって、ハインラインの「宇宙の戦士」のような成長物語となっている。
主人公、不二本誠は両親を前作の抗争事件で失った孤児。いわゆるオタクで小太り、ゲームびたり。でもどこか真面目で負けず嫌い。オタク仲間の友達秀記と、ドイツからの女子留学生グリセルダと日々を過ごしている。巨大ロボット兵器「メカ」のパイロット志望だが、彼の行くところ修羅場が常に待っている。
士官学校の入学試験ではテロリストのために友人を失い、実技試験では個人的偏見を持った試験官の嫌がらせにあうなど散々。だがエリート街道をゆく女子優等生範子の助けを得て第二の進路を見つけることができる。そこでの地獄のような訓練を経て、友人もできた。ドイツに戻ったグリセルダと再会するが、ナチス政権のドイツと日本合衆国は険悪で、グリセルダとの交友が原因でリンチにあうなど、なかなかいいことがない。
そんな誠が公式任務で赴いたのはナチスとの国境、そこでまたまた過酷な運命が待っている…
とにかく誠の行くところ、修羅場と殺戮と破壊のオンパレード。つかの間の幸せをことごとく叩き潰す出来事が連続するが、そんななかでも人とつながり、立ち上がり、這い上がってく姿がいい。前作に登場した特高の槻野昭子もいい味を出している。また、前作ラストで活躍した少年メカパイロット、久地樂が相変わらずの傍若無人っぷりで登場するのも嬉しいところ。
前作とはカラーは少し違い、メカバトルもたっぷり。権謀術数そのものより、それに振り回されながらたくましく生きる若者たちの姿には明るさがある。
「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」読了 ― 2020年11月24日 18:13
ピーター・トライアスの「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」を読了。
文庫(上下2巻)とHPB版が同時出版されているこのシリーズの第1作。表紙イラストには零戦的な日の丸を左肩に描いた巨大ロボット。正直キワモノ感満載の見た目。多少色眼鏡をかけて読み始めた。
タイトルをみれば想像がつくが、第二次大戦で枢軸国側が勝利し、日本軍は核魚雷でサンノゼを攻撃、巨大二足歩行ロボットで西海岸を制圧、アメリカ東海岸はドイツが制圧し、アメリカ合衆国は消滅したという設定。フィリップ・K・ディックの「高い城の男」へのオマージュが散りばめられている。
日本合衆国(USJ)はロサンゼルスに首都を置いているが、その当地は軍国主義そのもの。監視と弾圧、「特高」という嫌な響きの役人が闊歩し、軍人が我が物顔。そしてもちろん官僚制もきっちり敷かれ、見事に腐敗しきっている。そんなUSJで、市民は「電卓」と呼ばれるポータブル端末でネットワークに接続し、ゲームや通信を行っている。その環境の中で密かに流布しているのが、第二次大戦で連合国側が勝利したという設定のシミュレーションゲーム、「USA」。もちろんご禁制のゲームである。
このゲームを追って、優秀だが感情の制御が不完全で暴走する、危険で思想的にコチコチの特高課員である槻野昭子と、うだつの上がらない中年に差し掛かった女たらしでぐうたら少尉(を装っている風)の石村紅功の二人がギクシャクしながら動き出す。
二人の人間が互いを理解し合う過程を読者も追体験していくことになる。このあたりがしっかりと描かれているのが素晴らしい。ラストの一章は強い余韻を残す。
キワモノどころか、エンターテイメントと人間ドラマがきちんと融合した佳作。
文庫(上下2巻)とHPB版が同時出版されているこのシリーズの第1作。表紙イラストには零戦的な日の丸を左肩に描いた巨大ロボット。正直キワモノ感満載の見た目。多少色眼鏡をかけて読み始めた。
タイトルをみれば想像がつくが、第二次大戦で枢軸国側が勝利し、日本軍は核魚雷でサンノゼを攻撃、巨大二足歩行ロボットで西海岸を制圧、アメリカ東海岸はドイツが制圧し、アメリカ合衆国は消滅したという設定。フィリップ・K・ディックの「高い城の男」へのオマージュが散りばめられている。
日本合衆国(USJ)はロサンゼルスに首都を置いているが、その当地は軍国主義そのもの。監視と弾圧、「特高」という嫌な響きの役人が闊歩し、軍人が我が物顔。そしてもちろん官僚制もきっちり敷かれ、見事に腐敗しきっている。そんなUSJで、市民は「電卓」と呼ばれるポータブル端末でネットワークに接続し、ゲームや通信を行っている。その環境の中で密かに流布しているのが、第二次大戦で連合国側が勝利したという設定のシミュレーションゲーム、「USA」。もちろんご禁制のゲームである。
このゲームを追って、優秀だが感情の制御が不完全で暴走する、危険で思想的にコチコチの特高課員である槻野昭子と、うだつの上がらない中年に差し掛かった女たらしでぐうたら少尉(を装っている風)の石村紅功の二人がギクシャクしながら動き出す。
二人の人間が互いを理解し合う過程を読者も追体験していくことになる。このあたりがしっかりと描かれているのが素晴らしい。ラストの一章は強い余韻を残す。
キワモノどころか、エンターテイメントと人間ドラマがきちんと融合した佳作。
「三体II:黒暗森林」読了 ― 2020年10月03日 10:55
「三体II:黒暗森林」を読了。
三体人の侵略艦隊が迫る中、三体人の量子コンピュータである「智子」によって地球の情報は完全に筒抜け状態。だが、三体人は完全な相互コミュニケーション能力を持っており、地球人類のような「腹芸」や「嘘」を把握できないことが判明。そこで、自分の頭の中だけで戦略を立て、それを誰にもさとられず実行するための権限とリソースを与えられた「面壁人」が人類の中から4人選ばれる。主人公はそのなかでも最も不可解な選ばれ方をし、活動も人類とは何の関係もない私生活充足のみ。だがどうやら彼こそが三体人が最も恐れる面壁人だった…
少々強引なオチの付け方のようにも思えるが、主人公が意外な形で問題の核心に近づき、おまけに情けない人物なのは同じ。ヘタレなのにやるときゃやる男とくれば、日本で一番有名なあの5歳児の父親のようなイメージか。
前作に続いてがさつな切れ者警官は健在。シリーズものにつきもののエピソード言及による読者サービス(前作の主人公のその後もさり気なく知らされる)もあって、上下二巻のボリューム(もっとも海外SFならこの程度の分量、上下二段組厚めのハードカバーでドンっと出版されていてもおかしくない。ハイペリオンに比べれば可愛い分量だ)を意識させない。
エンタメ小説としても文句なし。次作第三部でシリーズ完結なのだが、期待できるに違いない。何事もなく出版されることを祈るばかりだ。
三体人の侵略艦隊が迫る中、三体人の量子コンピュータである「智子」によって地球の情報は完全に筒抜け状態。だが、三体人は完全な相互コミュニケーション能力を持っており、地球人類のような「腹芸」や「嘘」を把握できないことが判明。そこで、自分の頭の中だけで戦略を立て、それを誰にもさとられず実行するための権限とリソースを与えられた「面壁人」が人類の中から4人選ばれる。主人公はそのなかでも最も不可解な選ばれ方をし、活動も人類とは何の関係もない私生活充足のみ。だがどうやら彼こそが三体人が最も恐れる面壁人だった…
少々強引なオチの付け方のようにも思えるが、主人公が意外な形で問題の核心に近づき、おまけに情けない人物なのは同じ。ヘタレなのにやるときゃやる男とくれば、日本で一番有名なあの5歳児の父親のようなイメージか。
前作に続いてがさつな切れ者警官は健在。シリーズものにつきもののエピソード言及による読者サービス(前作の主人公のその後もさり気なく知らされる)もあって、上下二巻のボリューム(もっとも海外SFならこの程度の分量、上下二段組厚めのハードカバーでドンっと出版されていてもおかしくない。ハイペリオンに比べれば可愛い分量だ)を意識させない。
エンタメ小説としても文句なし。次作第三部でシリーズ完結なのだが、期待できるに違いない。何事もなく出版されることを祈るばかりだ。
「蒲公英王朝記」読了 ― 2020年07月05日 21:46
ケン・リュウの「蒲公英王朝記」巻ノ一、巻ノ二を読了。
神々がまだ人の世に影響を与える、いずこともしれぬ島嶼国家、ダラ諸島。ティロウ国家と呼ばれる七国が覇を争い、果てしない戦乱が続く中、北西の果ての弱小国家ザナ帝国は、マビデレを王とし、ザナでしか産出されない水素のような気体を利用した大飛行船艦隊を建造、ダラ全土をザナ帝国に大統一し、戦乱の世を平定した。だがその後の内政に失敗、自身も老い、その死の後内政は一気に腐敗、反乱が勃発する。
その反乱の中、マビデレに滅ぼされたかつての貴族、ジンドゥ家のフィンとその甥で武勇にすぐれたマタは豪胆と力でのし上がり、遊び人だったが人を惹きつける魅力に長けたならず者のリーダー、クニ・ガルは妻の助けも借りながら、多くの人脈を手に次第に勢力をまして…
どこかで聞いたことがある話である。そう、話の大筋は「楚漢戦争」そのもの、俗にいう「項羽と劉邦」だ。マタ・ジンドゥが項羽、クニ・ガルは劉邦。ストーリーはほぼおなじみのものだが、オリジナルを知っているのならば、その相違(例えば、マタのおじであるフィン、つまり項伯の運命や、四面楚歌の扱い、項羽の最期とマタの最期の差、そしてなにより韓信の登場!)を楽しんで読むことも一興。その違いこそがケン・リュウのスタンスを明瞭にしている。やはり「紙の動物園」や「もののあはれ」のケン・リュウはここでも健在だった。また、女性に対するスタンスも「よい狩りを」を彷彿とさせるところもある。
若い向きにはやれ「盗作」だの「ただの焼き直し」だのと見下す人もあるだろうが、それは了見が狭いというもの。なにせ中国、大人の国である。むしろ日本では教科書で「チンプン漢文」などと敬遠され、受験科目からも捨て去られようとしているコンテンツを換骨奪胎した上で、ツボを抑え、アップデートし、ポイントはきっちり掴んでエンターテイメントとして完成させ、現代に語り継いでいることの方に注目すべきだ。こうやって伝統をつなぐ努力をするのは敬意に値する。
そもそも「ライオン・キング」や「スター・ウォーズ」に入れあげるくせに、「ジャングル大帝」も「隠し砦の三悪人(もちろん黒澤版だ)」もろくに見ていないようでは、ケン・リュウのこの試みを笑う資格などないではないか。
続編がすでにアメリカでは発表済らしい。舞台はこの作品の5年後のダラ諸島の設定という。今度も中国古典に準拠するのか、それともまったくオリジナルになるのか、興味はつきない。
神々がまだ人の世に影響を与える、いずこともしれぬ島嶼国家、ダラ諸島。ティロウ国家と呼ばれる七国が覇を争い、果てしない戦乱が続く中、北西の果ての弱小国家ザナ帝国は、マビデレを王とし、ザナでしか産出されない水素のような気体を利用した大飛行船艦隊を建造、ダラ全土をザナ帝国に大統一し、戦乱の世を平定した。だがその後の内政に失敗、自身も老い、その死の後内政は一気に腐敗、反乱が勃発する。
その反乱の中、マビデレに滅ぼされたかつての貴族、ジンドゥ家のフィンとその甥で武勇にすぐれたマタは豪胆と力でのし上がり、遊び人だったが人を惹きつける魅力に長けたならず者のリーダー、クニ・ガルは妻の助けも借りながら、多くの人脈を手に次第に勢力をまして…
どこかで聞いたことがある話である。そう、話の大筋は「楚漢戦争」そのもの、俗にいう「項羽と劉邦」だ。マタ・ジンドゥが項羽、クニ・ガルは劉邦。ストーリーはほぼおなじみのものだが、オリジナルを知っているのならば、その相違(例えば、マタのおじであるフィン、つまり項伯の運命や、四面楚歌の扱い、項羽の最期とマタの最期の差、そしてなにより韓信の登場!)を楽しんで読むことも一興。その違いこそがケン・リュウのスタンスを明瞭にしている。やはり「紙の動物園」や「もののあはれ」のケン・リュウはここでも健在だった。また、女性に対するスタンスも「よい狩りを」を彷彿とさせるところもある。
若い向きにはやれ「盗作」だの「ただの焼き直し」だのと見下す人もあるだろうが、それは了見が狭いというもの。なにせ中国、大人の国である。むしろ日本では教科書で「チンプン漢文」などと敬遠され、受験科目からも捨て去られようとしているコンテンツを換骨奪胎した上で、ツボを抑え、アップデートし、ポイントはきっちり掴んでエンターテイメントとして完成させ、現代に語り継いでいることの方に注目すべきだ。こうやって伝統をつなぐ努力をするのは敬意に値する。
そもそも「ライオン・キング」や「スター・ウォーズ」に入れあげるくせに、「ジャングル大帝」も「隠し砦の三悪人(もちろん黒澤版だ)」もろくに見ていないようでは、ケン・リュウのこの試みを笑う資格などないではないか。
続編がすでにアメリカでは発表済らしい。舞台はこの作品の5年後のダラ諸島の設定という。今度も中国古典に準拠するのか、それともまったくオリジナルになるのか、興味はつきない。
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