教育とお金2022年09月05日 20:00

 アメリカでは教育ローンの減額政策が実施されるという。

 アメリカの大学の学費は、補助金の削除や高額なヘッドハンティングのための人件費など、複合的なものであるらしいので、日本とは単純比較にならないが、それでも報道では学費は20年で3倍となっているという。

 日本では「金利が低い」「返済がアメリカほど厳しくない」などと、火消し論が続出しているようだが、国公立大学の学費は年間約60万円。自宅から通学できる非常に幸運な学生を除けば、これにプラスして生活費、住居費が必要となる。学費程度の金額がこれに回る。研究や学習内容によってはアルバイトに時間を取りにくい学生もいるだろうし、昨今のCOVID-19のようなことがあれば、アルバイトどころではなくなる。そうでなくてもこの急激な円安で実体景気は冷え込む。喜んでいるのは一部のトレーダーぐらいのものだ。

 日本はアメリカほど(というより、先進国と名乗るには恥ずかしいほど)給与ベースが高くない。アメリカ人学生の平均奨学金負債が約400万円弱。これは日本の大学生の学費総額も似たような額になる((60+60)*4+入学金等)。学び直しという考え方が薄い日本では、大学に複数回入学して学ぶということが殆どないので、多重債務こそ少ないが、インカムが少なく、出費がアメリカと同じなら、火消しどころかアメリカより大変な現実があることになる。

 多額の負債を負ってまで進学が求められるのは、当然キャリアに直結するからだ。大学卒の学歴(学力とは言っていない)を要求するのは企業や国・地方公共団体である。となれば、受益者は学生だけではない。大卒求人を求める企業・国・地方公共団体もまた大学教育の受益者となる。その意味で国の施策としての学費負担は当然だ。

 大卒求人を条件とする企業、あるいは結果として大卒応募者を優先採用する企業(大卒を条件にしていないけど、結局大卒しか採用しないズルい企業もいるだろうから)は、採用した大卒職員の学費の相当額を負担するのが筋である。それが嫌なら、大学での学びに必要な費用を大学生の親となる職員に対して給与の形で保証すべきだ。当然授業料分程度の負担はあってしかるべきだし、自宅から通えない状況なら単身赴任手当ぐらいの金額も求められるだろう。

 それが嫌なら、高卒でも中卒でも採用して、自社でコストをかけて教育すべきだ。卒業後の学び直しの機会が経済的に保証されていないこの国が、学び直しを積極的に推し進める他国にみるみる引き離されている現状を見れば、企業も学費負担を無視することなどできるはずがない。

 雀の涙ほどの奨学金を知らないどこかにばらまいて節税のネタにするぐらいなら、自社に関わる人材の学費をしっかり負担するほうがよほどいいのではないか。その意味で、かつての日本育英会が教員として採用された学生の奨学金返済を免除していたのは理にかなっていたのである(そして、それをやめた結果が今の教員不足の遠因ともなっている)。