暗夜/戦争の悲しみ 読了2014年09月30日 23:38

 中国人女流作家、残雪の『暗夜』と、ベトナムの作家パオ・ニンの『戦争の悲しみ』を読了。

 『暗夜』はカフカ的不条理な世界のオンパレード。もちろん文化大革命を経た中国を背景にした作品だけに、深読みはいくらでもできそうだが、それでは局所・短期的な享受に過ぎなくなる。このような不条理は20世紀初頭のヨーロッパでも、そして現在の日本でも通用しうるのではないか。読む側にそれなりの度量と力量を問われる、しかし全体的に閉塞感の漂う作品群だった。

 『戦争の悲しみ』は、ベトナム戦争に破壊された若者たちの物語。時系列がバラバラなのは現在の南米文学やSF小説ではおなじみで、そんなに抵抗を感じることはなかった。凄絶なベトナム戦争(というより、ほぼ20世紀全てと言っていいインドシナ戦争)と、その中で破壊される個人の生活の諸相。兵士を露悪的でもなく、かといって聖人化することもなく、等身大に描く姿がすさまじい。壮絶としか言いようのない戦争体験の中でも、仲間への気配り、人への優しさ、死者への鎮魂と、どこか我々日本人に近い感性を感じる。

 それにしても、我々は中国にせよベトナムにせよ、どれほど無知な生活を過ごしているのだろうか。いまの我々の両国に対する一般的イメージを考えると、その無知さ加減に寒々とした感覚をもたざるを得なかった。経済一辺倒、低コスト一辺倒でしかアジア諸国を見ていない我々の日常生活の視点を根底から揺るがす作品だった。