「静かなる叫び」を観る2021年08月17日 11:58

 「静かなる叫び」を観る。2009年のカナダ映画。前編モノクロ。監督はドゥニ・ヴィルヌーヴ。

 モントリオール理工科大学で実際に起きた銃乱射事件をモチーフにした作品。フェミニズムによって自分の人生を狂わされたと思い込んだ若い男が女子学生を集中的に銃撃、14名を射殺、14名を傷害したという事件だ。

 作品はこの事件を時系列と中心視点をを入れ替えながら再構成する。犯人の犯行前の行動と、被害女性を助けようとして果たせなかった男子学生という、大局的な存在の二人が実は類似行動を取っているなど、単に善悪をきれいに分けるという感覚では作られていない。

 女子学生の視点では、フェミニズムというよりもっと根源的な社会的性差別の現状と、それを受け入れてしまう女性という現実が突きつけられる。全体的に事件を俯瞰し、他人事とは思わせない構成となっている。

 この作品も静謐。ヴィルヌーブはカナダ人だが、むしろフランス(もちろんカナダはフランス語圏)やヨーロッパ系の作品の香りがする。いい意味でハリウッドじみていないし、ディズニー臭くもない。

 この作品でも、香料とした見渡すかぎり白一色の雪の平原が登場する。ブレードランナー2049や、砂の惑星など、後の彼の映像の基本がすでに見られるのも興味深い。

 事件の被害者たちのその後の話も、重く辛く、だがわずかに光も見える。できればこういう映画は劇場で、ゆっくり観たいものだ。

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