「ブリキの太鼓」読了2016年01月13日 21:42

 ギュンター・グラス著「ブリキの太鼓」読了。

 映画でも有名、作者も先日逝去し、再び脚光を浴びている作品。

 30歳になる、短躯の主人公、オスカル・マツェラートが、収容されている精神病院で看護師に語る半生という体裁。オスカルは精神的には非常に早熟だが、3歳の時から肉体の成長を止めてしまう(後に若干成長する)。その彼が語るのは祖母が母を身ごもる時点から。その時代背景はダンツィヒでのナチ政権前後。

 オスカルは超音波帯の声がだせるようで、これを使ってガラスを自在に破壊することができる(ただし教会のステンドグラスは破壊できなかった)。この特技で悪事を重ね、ブリキの太鼓を叩いて物語を語る。オスカルの心性はカトリックの洗礼を受けながら、悪魔に魅入られているようで、彼の行動は意図する,しないにかかわらず、周囲の自分の庇護者や愛するものを死に追いやっていく。

 オスカルは臭いフェチであり、成人としての精神活動をしながら、かなり粘着質で執着心が強く、子供っぽいこだわりと残虐性を持っている。悪漢といっていいだろう。しかしそんなオスカルが見つめる周囲の社会もまた醜悪で日和見的。みなどこか狂っている。ナチの狂気はその延長線上に君臨するかのようだが、オスカルは周囲の狂気を直視し、暴き出し、哄笑を浴びせる。発育異常であるオスカルは、当然ナチからすれば抹殺対象である。そんなオスカルが、悪漢であるがゆえにナチと対峙できる皮肉。一方で、そんなオスカルをかばい続けたマツェラートを、オスカルは結果的に、ナチが崩壊した時に侵攻してきたソ連兵に射殺させてしまう。悪漢には悲劇しか残されない。

 しかし作品は祝祭的な色彩を帯び、どことなく飄々と進む。読者へのフェイクもあり、猥雑で辛辣、深刻で滑稽、シリアスでファンタジック。ラストも開放的。読後の充実感は文句なしだ。

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