「司政官 全短編」読了2019年03月06日 23:19

 「司政官 全短編」を読了。

 「引き潮のとき」をリアルタイム連載で読んでいたのはずいぶん以前のことになった(歳がバレるか…)。久しぶりに眉村卓の司政官物を読んだ。作品発表順ではなく、作品世界の世代順というところがポイントである。

 人類が宇宙に進出し、新たな可住惑星を発見、植民地化していく未来。惑星探査と入植初期は軍の管轄であった。原住知的生命体への対応や、入植者との軋轢を強引かつ暴力的に解決し、入植した人類側の完全支配(つまり事実上の征服)を目指そうとする軍に対し、原住知的生命体を尊重し、入植者との平和裡な形での共存社会を目指そうとする中央政府が生み出したのが司政官制度ということになる。常に沈着冷静、私情を交えず、中立の立場で植民惑星を統治するために厳しい訓練と競争を勝ち抜いてきたエリート中のエリートが司政官となる。

 その当初は軍への遠慮、原住知的生命体の理解の壁、理想と現実とのギャップに苦しみ、やがてシステムが安定すると平和に倦み、次第にシステムが崩壊し、司政官制度そのものが立ち行かなくなるまでが、時系列順に並べられた短編によって俯瞰できる。

 司政官シリーズといえば、状況説明や心理描写といった「ひとりつっこみ」文体が印象的だ。延々と、見ようによっては後知恵の説明や言い訳のようにも感じられる一人称の内面描写が、孤独な司政官のありようを浮かび上がらせていく。ある意味、非常に特殊な設定の「私小説」とも言えよう。情緒に流れるきらいのある作品が発表初期のものにはあり、あとがきの作者自身がそのことを指摘している。だが、この作品はむしろ、大きな政治的動きの中に身を置き、それに翻弄される個人の物語であり、個人の力ではどうにもならない状況にある人間の非力さ、虚無感が強く感じられる。

 司政官の夢の跡には風ばかり。

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