「シン・仮面ライダー」を観る2023年04月23日 16:13

 「シン・仮面ライダー」を観る。やっと観ることができた。

 一言で言えば「東映クオリティ」。庵野印のフレーバー付き。

 キャラクターの背景がほとんど描かれていない。暗示もないことはないが杜撰。ここに説得力がないのが致命傷であり、「東映クオリティ」(それもヒーロー物映画の)そのものだ。

 設定事項の全編にわたる不徹底も目に付く。ご都合主義はこのての作品にはつきものだろうが、それにしてもおそまつな不徹底が散見される。

 アクションと効果がド派手なのも「東映クオリティ」。暗闘どころか、あれでは丸見えである。

 ショッカーの描き方も不十分。悪役に魅力も恐怖感も感じない。ラスボスはショッカーそのものですらないのだが、その存在がまた薄い。大幹部ばりの振り切ったキャラクターにもなりきれていない。だからラストも唐突感が拭えない。

 ロボット刑事やキカイダーやイナズマンやV3を入れ込みたがるのもまた「東映クオリティ」。カメオも多すぎると辟易する。

 要するに登場人物がすべて薄っぺらい。だからドラマが成立しない。改造人間(オーグなどとおしゃれな名前にしているが、これもまた「東映クオリティ」)の疎外感、絶望感、孤独感が伝わらないので、ただの「アブナイやつ」オンパレード。原作の持つ「同族殺し」の重さがない。TV版第1話の部分は、残念ながらTV版を超えることすらできていない。あきらかに尺不足だ。それとももしかして、3時間超えの「ディレクターズ・カット」でもあるのだろうか。

 ラスト、原作で本郷が死に、一文字に「意志」を託したあとのダイアローグシーンは再現されているが、本郷の孤独、疎外感の描写が薄く、一文字に至ってはほぼキャラクター背景が描かれていないのが痛い。キーワードが機能していない。原作も一文字のキャラクター設定はこの時点でほとんどなされていないが、本郷の設定がしっかりしているので、一文字が背負うものも伝わっている。

 撮影技術を除いて、残念ながらTV第1話の域に達していない。原作に対しては言うに及ばず。

 製作委員会縛りもなく、「東映クオリティ」縛りもなかったらとも思うが、メインストーリーのベースが「人類補完計画」そのものなのではそれもどうだろうか。石ノ森の世界は「孤独」の追放ではなく、「孤独」を受け入れ、その上に立って「仲間」を認識することで成り立っている。「孤独」の闇が別のものにすり替わっているこの作品で石ノ森フォーマットを使えば、やはり「東映クオリティ」にならざるを得ないのかもしれない。

 TV版の藤岡弘、の毎回ラストの苦虫を噛み潰したようなアップにも、原作のカタルシスを否定した孤独な暗闘の世界にも、残念ながら踏み入れきれていない。かと言って平成ライダーのように振り切ってもいない。原作リスペクトは感じるが、原作の掘り下げは不足と感じる。

 先日NHKでメイキング番組が放送されたが、ラストバトルの撮影時に庵野が口走った「ここまでどうせ失敗なんだから」がすべてを言い表しているように思える。