「マルモイ ことばあつめ」を観る2023年05月01日 22:28

 「マルモイ ことばあつめ」を観る。2019年の韓国映画。監督はオム・ユナ。

 1940年代、日本統治下の朝鮮での話。主人公のパンスはお調子者の小悪党オヤジ。実は文字が読めない、無学で下品だが、どこか憎めない、人を引きつける不思議な魅力を持っている。優秀な息子の中学校の学費を稼ぐために必死だ。そんなパンスがある日、エリート風の若い男、ジョンファンの鞄を盗もうとして取っ組み合いになる。ところが、日本の警察がその現場にやってくると、逃げるパンスを追い抜いて逃げていくジョンファン。ジョンファンの鞄には、日本により弾圧され、抹消されようとしていた朝鮮語の辞書づくりの資料が入っていたのだ。これがバレればジョンファンもただでは済まない。

 そんな出会いの二人。最初は衝突を繰り返し、不信をつのらせていくが、次第に打ち解けていく。バディものの王道だ。

 パンスがジョンファンに文字を教えられ、町にあふれている文字を読めるようになったときの喜びぶりが微笑ましい。かつて日本で学習を奪われ、文字を奪われた人が、成人してから文字を知り、生まれて初めて町の看板の意味がわかって、全世界が一気に眼の前で大きく広がったという話を聞いたことがあるが、このときのパンスはまさにそれを体験したのだろう。

 時代背景からして、登場する日本人は典型的な悪役。だが、権力に溺れ、他人を見下し、気に入らないとヒステリックなまでにサディズムに溺れる悪役は、クソ軍人の典型。こういう連中が気に入らない日本人にもろくでもない暴虐の限りを尽くした。日本人社会ですら蛇蝎のごとく嫌われるキャラクターなのだから、妙な「反日」カラーなど感じない。他国民を見下す暴力権威は、必ず自国民へも暴力を振るう。日本人として胸を張ってこの作品の悪役日本人をバッシングしたいほどだ。

 ラストは悲劇的な結末となるが、それでもその後日談で救われる。シリアスな作品だが、どこか爽やかで、清々しい気持ちで見終わることができた。史実を元にしているが、ストーリーはフィクション。このラストシーンのあと程なくして、朝鮮半島は民族分断という新たな悲劇を迎える。そのことを知っているからこそ、この作品のラストの清々しさが余計にしみる。

 いい作品だ。

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