不安なこと2016年11月09日 21:50

 国民の中でも、特に中流以下の保守層が既得権益を失っている時期に、その不満を解消すると称して、反動的な弁舌と自己中心的利益誘導、そして「偉大なる過去の再生」「自国の偉大さの回復」をスローガンにのし上がり、民主的手段によって国民から選ばれた人間は、かつてのヨーロッパにもいた。その人間が国家のトップになった時、世界がどのようになったかは周知の事実である。問題は、その人間が立ち上げた独裁政権は、当時世界最高と謳われた民主的憲法の元で誕生したということだ。

 孟子は今から2500年ほど前に、梁の恵王に「叟(あなたは)千里を遠しとせずして来たる。亦将に以つて吾が国を利すること有らんとするか。」と下問され、「王何ぞ必ずしも利と曰はん。亦仁義有るのみ。」と答えた。その理由は「苟しくも義を後にして利を先にするを為さば、奪はずんば饜かず(満足しない)。」ということだった。現代のビジネスはまさに「利すること」が最優先であり、「仁義」なきビジネスウォーズこそがグローバル化の別名と言ってもいい。孟子によれば、その結果は「奪はずんば饜かず(むしり取って搾取し尽くさない限りおさまらない)」ということになる。

 アメリカの次期大統領選挙の結果を見ると、不安がよぎる。「議会が暴走を抑止する」「発言が実現することはありえない」などとのんきなことを言っていて大丈夫なのか。ビジネスマン出身であることがそんなに政治に重要なのか、過去の歴史は大きな不安材料を残している。

 もっとも、先代の大統領にも、ずいぶんその適正や能力を叩かれながらも2期8年の人気を全うさせた国なのだから、選挙の結果は驚くには値しない。

 失言・暴言については、我が国もアメリカを笑える状況には全くない。また、そういう候補を当選させたことも笑えた義理ではない。選挙区の地元利益の誘導と地方の既得権益の維持のため、国民の多くが眉をひそめるような言動を繰り返しながら、国会議員に当選している政治家がいるのだから。

 アメリカを笑えば、日本も笑うことになる。