「複成王子」読了2019年06月30日 23:23

 ハンヌ・ライアニエミの「複成王子」読了

 前作「量子怪盗」もなかなか凝った設定で、世界観を掌握するには手間取ったが、それは今回も同様。ヴァーチャル世界とリアル世界が入り組んだ設定に慣れるのには時間がかかる。しかし、ストーリーそのものはむしろ王道であり、それに乗れさえすれば一気にラストまで突っ走ることができる。

 前作で記憶の断片を取り戻した量子怪盗ことジャン・ル・フランブールの次の目的は地球、だが相棒たるべきミエリとは今ひとつしっくりできず、ミエリが生み出した宇宙船ペルホネンの意識とフランブールが共同してミエリを誘導する陰謀まで巡らす始末。そんなペルホネンが襲撃を受け、損傷を受けてしまう。

 一方地球は、巨大な宇宙建造物の崩落と、人間の意識をアップロードした「ソボールノスチ」のジェノサイド計画のために壊滅的な損傷を受けている。わずかに残った人類は、アラビアンナイトさながらの世界を構築して生き延びている。ソフトウェア生命体が「精霊」として存在し、地球の周囲は巨大な「瓢」と呼ばれるフレーム上の巨大建造物が取り囲んでいる。

 ストーリー全体が入れ子構造であり、特殊用語が遠慮なく飛び交い、かなり責めてくる作品だが、そんなことを放り出させるほどの物語の力でグイグイ押してくる。イメージの奔流に身を任せるのが一番だろう。