「母の記憶に」読了2023年02月07日 20:31

 「母の記憶に」を読了。ケン・リュウの日本版アンソロジーの2冊め。

 母と子、家族、血縁、そういったものの強さ、しがらみ、悲しさが伝わる作品群。ウラシマ効果という古典的アイディアを使った切なくも秀逸なショートショートである表題作「母の記憶に」、清王朝成立前の満民族による揚州大虐殺(当然、満民族がその後打ち立てた清王朝の正史からは排除されている)を庶民の側から描く2作「草を結びて環を銜えん」「訴訟師と猿の王」、遠隔介護を取り上げた「存在」、ハードボイルドスタイルの「レギュラー」、そしてのちの「蒲公英王朝記」の雰囲気を感じる万味調和―軍神関羽のアメリカでの物語」、掉尾を飾る歴史改変ストーリー「『輸送年報』より『長距離貨物輸送飛行船』」と、どれも一級品。

 そしてなにより羨ましく感じるのは、作品の中にしばしば登場する中国の歴史や文化だ。漢詩を歌にして口ずさみ、歴史上の英雄たちの故事を誇らかに語る。こういうところに中国文化の裾野の広さを感じてしまう。

 おおらかで、力強く、しかし時の流れに抗いきれず滅び去っていく、または新しい姿で生き延びていく、そういった寂しさや切なさもしみじみと伝わってくる。ジャンルで色眼鏡をかけて食わず嫌いしているのはあまりにもったいない。

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