「夢幻諸島から」読了2017年12月24日 23:18

 クリストファー・プリーストの「夢幻諸島から」を読了。

 読み始めてずいぶん時間が経ってしまったが、これほど読み終わりたくないと思う本も珍しい。

 どことなく地球を連想させるような他の惑星。時間が歪む空間属性のため、高度の高い飛行は不可能。飛行機は短距離の低空飛行しかできない。表面の大半は海洋で、北と南に大陸、そして海洋には多くの島々が点在している。交通手段の多くは船、そして2大国家間の戦争が影を落としているが、今は戦争も膠着状態で冷戦下にある。しかし実戦が間近と言った緊迫感はなく、夢幻に広がる美しい海原、熱帯島嶼の熱さ、寒帯島嶼の風の冷たさ、そういったどちらかといえばゆったりした世界が続く。

 本編はこうした島々の観光ガイドの体裁をとっている。最初から読まねばならないというものではなく、また、そのような直線的な読みを許容しない作品でもある。元に何度も行きつ戻りつしながら読むことが求められ、それがまた楽しい。

 複数の短編が統合されているが、複数の短編にまたがって登場する人物や事件も複数あり、また、複数の事件が絡みあうこともあって、まさにモヤの中で少しずつ世界を掌握していく感覚は、かつての名ゲーム「ミスト」を彷彿とさせる。そう、この本は焦って読んではいけない。あの「ミスト」同様、何度も試行錯誤し、行きつ戻りつしながら紐解いていくべき本だ。

 それでも最後の話にいつかはたどり着いてしまう。最後の短編に登場する二人の話を読むと、どうしても「イザナギ」「イザナミ」神話を連想してしまう。そしてこの最後の話が終わったとき、また夢幻諸島への船出が始まる。

 急いで読む必要はない。気の向くまま、思いのまま、ゆったりと夢幻諸島の世界に、はるかな大海原の波にゆったりと揺られながら、潮の香りと風の感覚を楽しみながら読むのが一番だ。

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