「神の水」読了2019年07月10日 22:10

 パオロ・バチがルピの「神の水」を読了。

 長編「ねじまき少女」、短編集「第6ポンプ」のバチガルピは、今回「第6ポンプ」で取り上げた、アメリカ西部の水不足問題を真正面から取り上げて、見事なディザスター小説に仕立て上げた。

 コロラド川の水が枯渇し、ネヴァダ、アリゾナ、カリフォルニアの三州が水利権を巡って内戦寸前の状態となっている未来。州境には民兵が立ち、人的通行は厳重に制限され、カリフォルニアは強力な武力でネヴァダ、アリゾナを牽制している。そんな中、ハリケーン被害のためテキサス州からの大量の難民がアリゾナへ流入し、州都フェニックスは急速に治安が悪化していた。

 ネヴァダ州ラスベガスの有力者、ケースに拾われ、ラスベガスの水利権を保持するためにもっぱら汚れ仕事に従事する水工作員・ウォーターナイフ(これが原題)のアンヘルは、ケースの命を受け、かつての友人で、同じくケースのもとで働いている同僚ウォーターナイフのフリオの不審な動きを探るべく、フェニックスへ潜入する。そして暴力と無法のまかり通るフェニックスの闇へとはまり込んでいく。

 東部からフェニックスに住み込み、取材を続けるジャーナリストのルーシーは、儲け話をちらつかせていた友人でフェニックスの水道局職員ジェイミーの殺害を知り、その裏でうごめく陰謀を暴き始める。

 テキサスからの難民少女マリアは、スラムのボス「獣医」への支払いに奔走するが、次から次へと災難に見舞われ、とうとう危険に足を踏み入れ、生命の危機に直面することになる。

 この3つの物語が交差する時、物語は大きく動き、さらなる破壊と破滅が始まっていく。そして予想外の静かなラストシーンへ物語は進んでいく。

 「シップブレイカー」がジュブナイルであったために、抑え気味のストーリー進行だったが、今回は暴力や残酷シーンもたっぷりと「お行儀悪く」描写され、崩壊しつつあるフェニックスを遺憾なく表現している。ボリュームはあるが、一気に読ませる筆力はアメリカSFの醍醐味と言えるだろう。