「ロープ 戦場の生命線」を観る2019年11月23日 23:22

 「ロープ 戦場の生命線」を観る。2015年のスペイン映画。スペイン映画といえば、古くは「汚れなき悪戯」、最近では「パンズ・ラビリンス」もあった。シネコンなどではなかなか観ることが少なくなった国の映画だが、もったいないことだと思う。

 バルカン半島のある地域。1995年のユーゴ内戦の停戦直後、ある井戸に死体が投げ込まれ、井戸水が汚染されてしまう。死体を引き上げて水の浄化をするのは「国境なき水と衛生管理団」の、国籍も出自もバラバラのチーム3人と、新人のフランス人女性の4人。引き上げ作業中にロープが切れ、たった一本のロープを求めて彼らは地雷の残されている危険な地域を奔走することになる。

 作品は決して重くなりすぎず、ブラックコメディ仕立てだ。主人公は本国に恋人を残しながら、派遣先で浮気を重ね、その相手の一人と現地で再開してしまう。このあたりも笑える設定だが、某国のコメディらしきもののような子供だましのコメディなどどこにもないのがいい。爆笑ではなくニヤリとできる。

 しかし現実は悲惨だ。荒れ果てた町、犠牲者たち、残された者も心はすさみ、活動も法やルールに縛られ思うように進まない。徒労感にとらわれ、やり場のない怒りを噛み締めながら、それでも現地の人に寄り添い、主人公たちは飄々と活動に取り組んでいく。緊迫した場面でもどことなく乾いたユーモアで乗り切っていく彼らだが、現実にそうでもしないと押しつぶされてしまいそうな環境だ。

 そんな鬱憤を吹き飛ばすかのような激しいロックが響き、ラストは反戦歌「花はどこへ行った」をバックに、ロープを探し求めた道中の様々な情景が雨の中で繰り広げられる。そしてラスト、あの井戸の中の死体の問題も思いがけない形で解決を迎える…

 声高でもなく、悲愴でもなく、安易なハッピーエンドでもなく、戦争の傷跡を引きずりながらも、生きていく人々の日々は続いていく。くすりと笑い、怒りと失望に心を揺るがし、そして最後に僅かな、だが確かな希望を抱かせて、この悲喜劇は終わる。

 良質のブラックコメディであり、良質の反戦映画だった。スペイン映画、恐るべし。