Lady in satin 鑑賞2016年11月20日 21:24

 ビリー・ホリディの「Lady in satin」を鑑賞

 全編失恋の歌だが、甘く切ないといったイメージではない。ヴォーカルは完全に枯れていて、まるで老婆のよう。それも、矍鑠とした老婆でもなく、人のよさそうなおばあちゃんでもない。ごく普通の、人生の辛酸を舐めつくして、すべてを悟り受け入れて、自然体で過ごしているような老婆。

 お世辞にも美声とは言えない。だが、それでも歌が生きている。声が美しいだけが歌ではない。どこか諦観を漂わせた、遠い過去を振り返るような失恋の歌。すでに心の傷も乾いた傷跡だけになって、それを一つ一つ確かめるような歌。

 だから、どこか救いのようなかすかなぬくもりも感じる。バックの柔らかく包み込むような演奏がその感を更に強めている。

 ビリー・ホリディは、このアルバムをレコーディングした翌年、死去。享年44歳。