「大衆の反逆」読了2018年02月21日 23:11

 オルテガ・イ ガセット「大衆の反逆」を読了。

 第二次大戦前に著されたスペインのガセットによる社会哲学書。だが、やや持って回ったような表現はあるが、熱く迫るような文体には引き込まれてしまう。

 20世紀は「大衆」が社会を動かす時代だが、この「大衆」というのが、それまで人々が営々と築き上げてきたさまざまな人間的権利をただ享受するだけの「あまやかされたおぼっちゃん」であって、自分の選択には無責任極まりなく、すぐ目先のことに惑わされては「ナショナリズム」や「ファシズム」に突き進む、物騒極まりない存在だという。

 なぜ「大衆」がそうなのかといえば、簡単に言えば「明日への展望」を持たないから。過去にしがみついていたのでは国は滅ぶ。今を大切にしながら、明日への展望を求め続けなければならない、ということになる。

 また、社会や国家も、これからは各自の歴史や個性を保ちながらも、共通の明日への展望をもった集団、国家同士が連携し、巨大な国家的存在を作る必要があるとも述べているが、これはまさにEUそのもののアイディアだ。もちろんこの作品が書かれていた時点でEUは存在していないし、このEUを危機に陥れているのは、イギリスに沸き起こっている「ナショナリズム」の現れではないか。

 世界は今、アメリカの「自国第一主義」という「ナショナリズム」で混迷している。「あまやかされたおぼっちゃん」が少子高齢化によって「あまやかされた高齢者」と化して、無責任な言動で顰蹙を買っているのはど娘の国か。日本とて例外ではない。

 百年経って、スペインの国を憂えた本が、世界中の混迷を言い当ててしまっている。これを著者は喜ぶか、それとも深く嘆くか。

 現代人は、ガセットに合わせる顔を持てない。