「コロナの時代の僕ら」読了2020年04月27日 21:19

 パオロ・ジョルダーノの「コロナの時代の僕ら」を読了。

 素粒子物理学者であると同時に、イタリアの新進気鋭の小説家でもあるパオロ・ジョルダーノがイタリアの新聞に発表したエッセイをまとめたものがこの本。出版されたのは2020年の3月。日本版には2020年3月20日付けの著者の新聞記事もあとがきとして再録され、これは日本語版のみだそうだ。それにしても3月20日以降わずか1ヶ月で日本語版が出版されたのだから、まさに「緊急出版」だ。30弱の短いエッセイ集であり、本も薄めですっと読める。しかしその内容は決して軽くない。

 当然時事問題的内容はどんどん変化していくのだが、ジョルダーノが語っている根底は、もはや現代の我々は個々人が全人類と抜きがたい紐帯で結ばれており、一人の言動は全人類、いや、この地球の生態系全体をも揺るがすものとなっているということだ。だからこそ、言葉を選び、行動を選び、慎重さと理性を持っていかなくてはならない。それが言うは易く行うは難しであることは、ジョルダーノ自身も「あとがき」で痛切に懺悔していることでもわかる。

 新たな伝染病はどこかから生み出される災厄ではなく、人間が引きずり出してきたものだということも、別に新奇な言説ではないのだが、我々はどれぐらいそのことを肝に銘じているのか、短いエッセイから突きつけられる指摘は鋭い。

 そして、今回のパンデミックで奪われた日常を、本当に元通りに回復すべきなのか。むしろ「回復したくない」日常があったのではないか。それこそが今回の、そしてこれまでも、更にこれからも生み出される感染症や環境問題の元凶ではないのか。ならば今こそ「回復したくない」日常のリストを、自宅にあって考えよう。この呼びかけが熱く、力強く述べられている。パンデミック後の新しい生き方の模索へと続く思索は、現状に右往左往している私には響くものがあった。

 普段から素晴らしい作家を探し、発掘し、翻訳出版することにかけては、今のこの国の出版会では早川書房が抜きん出ているのではないかと思う。今回もジョルダーノの小説を出版してきた早川書房だからこそできた緊急出版だろう。よほどの目利きがそろっているのではないだろうか。