「楽園追放」鑑賞2015年03月30日 00:02

 劇場用アニメ「楽園追放」を鑑賞。

 王道中の王道。はねっ返り娘(今風の萌系高露出だが、萌系なのには設定上の理由あり)と、ワイルドで誇り高きアウトロー男の組み合わせは、西部劇を筆頭に、あらゆるジャンルに関わらず鉄板のキャラ設定と言える。

 人類の大多数が人格をアップロードしたデータ社会に身を置く未来。データのネックになるのは当然メモリであり、それを管理するのが人為的な社会構造である以上、この世界は楽園であると同時に究極の管理社会でもある。

 その世界にハッキングをかける知性が現れる。その正体と目的を突き止め、ハッキングを阻止するために、主人公はクローン培養された自分の肉体に意識をダウンロードして、宇宙空間にあるデータバンク・ディーヴァから地上へと降下してくる。このへんはサイバーパンク式だが、昔懐かしい環境ギャップもののテイストであることは間違いない。環境ギャップとバディものの前例としては、「ローンレンジャー」や「キンダガートン・コップ」、「タイム・アフター・タイム」など、枚挙にいとまがない。

 地上で主人公を待ち受ける、いかにもなアウトロー男。虚淵玄の作品であることも考えれば当然だが、「Psycho-Pass」の狡噛と重なるところが大である。もっとも狡噛はストイックなほどに隙がない男だが、こちらの方は肩の力も軽く抜けていい感じだ。

 主人公が降下してくるデータバンクの名前、ディーヴァは「歌姫」の意だが、この作品に「歌」は大きな意味を持っているとともに、ディーヴァというネーミングそのものが強烈な皮肉となっている。

 アニメオタクと呼ばれる若者がマストアイテムとする「萌え」要素も取り込み、ストーリー的には手堅く、そしてSFテイストたっぷり。ラストやエンディングの後の部分など、古典的なSFファンには感涙ものだ。

 さり気なく知性や人格についての認識の問題も滑りこむ(解決は浪花節的だが、このストーリーにはそれが一番しっくりくる)。

 佳作である。アニメに抵抗がないなら、お薦めできる。

 興行成績は振るわなかったようだが、「ターミネーター2」に感動できる感性の持ち主なら問題なく受け入れられる。興業の問題は宣伝の問題もあるだろうが、今風のちゃらけた宣伝でぶち壊しにされるよりマシかも。3DCGを2D化しているのは「009 Re Cyborg」と同様だが、それをメインの売りにするのでは、この作品の本質を見失ってしまう。

 今の観客層に、果たして「ターミネーター2」を受け入れるだけの容量が与えられているのかどうかはまた別の問題である(すでに我々もデータ化され、誰かさんに支配されている?)。