「火線地帯」を観る2023年01月28日 17:14

 「火線地帯」を観る。1961年、武部弘道監督。「地帯(ライン)」シリーズの第5作であり、最終作でもある。石井輝男は脚本のみで、今回は監督してない。

 「黄線地帯」でカラーになったのに、前作「セクシー地帯」ではまたモノクロ、今作もモノクロだ。制作した新東宝はまもなく倒産という世知辛い事情もあるのかもしれない。

 今回も主人公は吉田輝雄。肝の座ったチンピラ役なのだが、角刈りが似合っていない上に、ワルっぷりもお上品。どこかおっとりは前作同様。

 ヒロインはこのシリーズ皆勤賞の三原葉子。今回はコメディエンヌ的なところは最初だけで、どんどんシリアスになっていく。男を手玉に取るようなイメージではなく、古典的な女性像。容姿も少し丸みが目立って、年増感が強く、ちょっとドロドロした感じだ。作品のテンポも前作までの軽やかでポップな雰囲気が消えていて、推進力は今ひとつ。悪の組織のお約束も、売春組織から今回は拳銃密売と暴力団の縄張り抗争となっているので、このシリーズのポイントだった猥雑で怪しい裏町の風景もあまり見ることができない。

 天知茂が今作復活。黒ずくめで憎めないワル。主人公とのバディものとなっているが、天知の飄々とした演技がなんとかこの作品を重くなりすぎない歯止めのようになっている。ピストル型ライターという古典的なフェイクギミックを久しぶりに見た。

 掉尾を飾るというには少々寂しい最終作。とはいえ、50年代末から60年代の高度成長が始まる街の空気や、お行儀のよい作品では見ることができない、ダークサイドの雰囲気を漂わせる下町、裏町の雰囲気も楽しめるシリーズで、何も考えずに楽しんで見ることができる作品群だった。テーマは性に絡むものが多いが、そのへんは当時らしくさらっと省略して暗示にとどめ、ストーリーを推進する方を優先する演出もいい。今のドラマでも活かしてほしいと感じる。