ミシェル・ウェルベック「服従」を読了2023年01月02日 11:55

 ミシェル・ウェルベックの「服従」を読了。

 フランスが2022年の大統領選挙で極右勢力と穏健イスラーム勢力の決選投票となり、穏健イスラーム派の政権が樹立されたという想定の作品。

 主人公は大学教授。どちらかと言えば世捨て人タイプ。研究対象がユイスマンスなので、なるほどとも思える。若い恋人(教え子)もいる。この辺は日本ではスキャンダルになりそうだが、この作品ではどうやらたいしたことではないらしい。この小説がそうなのか、フランス社会がそうなのか…どちらかと言えば後者だろう。

 国内の政治状況は不穏化し、テロが発生。移民に対しても反目が強まる。恋人も家族とともにイスラエルに脱出。そして主人公はムスリムでないことを理由に大学を解雇される。もっともイスラーム勢力にはオイルマネーのバックがあるので、解雇後も年金は従来給与なみに支給され、生活には困らない。改宗して大学に残ると、皿に高給が支給されるという具合。

 人嫌いの厭世家の主人公は、次第に自分が衰えていくのを感じ始める。だがそれはヨーロッパそのものの衰退とリンクしている。この「衰退」の感覚が全編を通してのトーンとなっている。厭世と社会や政治、人事への無関心を基本スタンスとしていた彼は、やがて大学復帰のオファーを受けるのだが…

 自由は孤立とつながり、衰退は無気力や無思考とつながる。その弱さを突き付けられる作品。ドラマティックではない分、じわじわと雰囲気に侵食されるような感覚に囚われた。ヨーロッパを覆う社会の空気を改めて認識させられた。マスコミが流すヨーロッパのイメージは、本当に表層的なものなのだろう。