「SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと」読了2018年08月13日 22:45

 チャールズ・ユウ著、円城塔訳「SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと」を読了。

 「オマル」2冊が上下2段組の大作だったのに比べ、こちらは1段組で300ページ程度と、物理的には軽かったが、内容はかなり歯ごたえのあるものだった。

 引きこもり系のタイムマシン修理人の主人公の日々の暮らしが、冒頭から語られていく。大きな事件が起きるわけでもなく、下町人情的な話があったりと、ゆったりとしたペースで前半の殆どが費やされる。

 それが大きく変わるのが、主人公がタイムトラベルでは最大のタブーとされる、過去または未来の自分自身と遭遇してしまうところからだ。おまけに主人公はとっさにもう一人の自分を銃で撃ってしまう。撃ってしまったもう一人の自分から手渡された、全ての事件の解決が書かれている本、それが「SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと」という本である。

 以降は主人公の内面的過去へと話が移っていく。行方不明の父との回想を通じて、タイムマシンが世にでるまでの秘史が語られ、父と自分の語り直しが始まる。もうこの辺は娯楽としてのSF小説からも逸脱し、純文学と俗に呼ばれている作品とSFとの混合がおこなわれている。

 翻訳は円城塔。適材適所とはこのことだ。